第12話 海辺の決意

 惑星ベリテのセレブリティ専用リゾート、アグリーヌ・コーブ。海辺のプライベートテラスに、穏やかな陽光と柔らかな波音が満ちていた。テラスはベリテ特有の低重力で育つ、傘のように横に広がった木々に囲まれ、淡い色の葉が光を優しく反射している。ここは、レギュレーターが設計した完璧な自然と人工の調和が、今も息づく場所だ。 テラスには、使用人に扮した警護の者たちが控えめに佇んでいる。彼らは、ここに集う婦人たちがただの富裕層ではなく、星系の未来を左右する重要人物であることを知る、数少ない人間だった。

 テーブル上のホログラム端末が、エリス自治政府首相ナディア・グプタの姿を映し出す。

「――グレイドロップ作戦の成功に、心から感謝します。皆様のご支援がなければ、事態は収拾不可能でした。アスラ開拓地区での我々の対応の遅れが住民の不信を煽り、結果としてデマが広がり、封鎖という暴挙を許してしまいました。ワクチンが無事に届けられたことで、ウイルスの蔓延は抑えられつつあります」

 婦人たちは優雅に紅茶を傾け、静かに頷く。ザーラ・タンがカップを置き、穏やかな声で応じた。

「首相、ご報告ありがとうございます。私たちも事態の収束を心より願っています。引き続き、協力をお約束しますわ」

 ホログラムが消え、テラスに波音だけが響く。婦人たちの視線が交錯し、会合の本題へと移る。

 ザーラが紅茶のカップを置き、静かに切り出した。

「さて、皆さん。エリスの事件は、星系全体の分断を象徴していますわね。自警隊の暴走は表面だけ。背後には地球圏の古い反レギュレーター勢力が暗躍し、デマや兵器の提供で混乱を煽っている。レギュレーターが去った今、私たちは惑星間の連携を強めなければなりません。でも、いきなり大規模な組織を立ち上げるのは現実的でない。まずは、前段階としてNGOを設立し、情報の共有と調整から始めましょう。名称は後で決めればいい。まずは行動です」

 レイラ・キムラが頷き、続ける。

「同意です。NGOとして、排他的思想が広がる土壌をなくすために、具体的なステップを踏みましょう。私が運営する教育基金から、資金の一部を提供します。主に若い世代の人材育成に充てるわ。若者たちを巻き込み、危機管理や情報リテラシーのトレーニングプログラムを開発する。惑星間のオンライン教育ネットワークを構築すれば、早期に効果が出るはずよ」

 ファラ・リムが静かに言葉を継いだ。

「私のバイオテクノロジー企業からも資金を出しましょう。環境保護団体との連携で、技術の共有を推進するわ。人材獲得については、各惑星の大学や養成所から有望な若手をスカウトし、インターンシップを提供。NGOの枠組みで、彼らを星系全体の調整役として育てます。レギュレーターの原則――自らで決め、自らで守り、過ちを省み、自らを尊ぶ――を基盤に、惑星間の規範を徐々に整えていく。これで、無益な争いを未然に防げるはずです」

 婦人たちは互いに視線を交わし、意思を固めた。ザーラがまとめの言葉を述べる。

「では、NGOの設立を正式に決定しましょう。まずは資金集めと人材募集から。地球圏の残党の野心を封じ、この星系を真に人類のものにするために」

 テラスに穏やかな風が吹き、婦人たちの視線は、遠くの海を見据え、星々の彼方への決意を秘めていた。

 ギムリーやダンのような若者が現場で未来を切り拓いている、その同じ瞬間。星系の未来を守るためのもう一つの戦いが、この静かな場所で始まっていた。

 これは、人類が再び星々を繋ぎ、その真価を問われる物語の始まりである。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る