BLってBLOODの略ですよね?/職人の霊に捧ぐ
スロ男
🐶🦈👙🇨🇳🧑🏫
犬ッころの悲痛な悲鳴。尻尾が縮こまってるだろうことが声だけで想像できる。
薄暗い部屋、異形のシルエット。
コーギーの頭部に犬の着ぐるみパジャマを着た人物が、鮫の頭部を持った化け物に馬乗りにされている。
作り物には見えない精巧な鮫の頭はガバッと口を開け、押さえつける犬人間の首元へガブリと噛みつく。悲鳴。頸動脈が噛みちぎられたのか、激しく噴出する血液。鮫肌が血の赤に染まっていく。
「おい、ワンコ」と鮫は言った。喋るのに適してないのか、合成音声のようなぎこちなさだった。「殺意がどうとかなんとか息巻いてたみたいだが、もうおまえは終わりだよ」
鮫の口から
コーギーは目も虚ろで、小刻みに震えている。それは恐怖のためではなく、急激な体温低下に抗う、生へしがみつく動きだ。
「誰かへ申し訳なく思うぐらいは脂肪を蓄えてるんだって? 佐川一政が言ってたが、ぷちぷちと脂肪の食感があるだけで、あまり旨くはないらしいな。どれどれ」
再び鮫が口を開いたとき、
薄暗い部屋の戸が大きく音を立てて開き、そこに人型の影があった。
ツカツカと部屋へと入ってきて、その影は言った。
「ひとりでマニキュア! 月に変わって、おまえを処す!」
ポーズを決めたようだったが、薄暗くてよくわからない。声は女性のものだった。その声を鮫も犬もよく知っている。
鮫がまた腥い息を吐いた。
犬は虚ろな眼差しのまま、カクッと首をそちらに向けた。もはや吹き出すほどの勢いはないのか、血は床を濡らすばかりだった。
部屋の明かりがなぜか灯った。
立っていたのは、雨川だった。いわゆるビキニアーマー様のコスチュームに、腰にはパレオ。足にはジャングルブーツ。片足立ちでもう一方は膝を高く上げ、両腕は揃えてピンと伸ばした状態で後ろへ流されている。往年の芸人、ゆーとぴあを思わせるポーズだった。
「遅かったな、雨川……もうワンコは瀕死だぞ……」
「はぅっ……うう……あわ……」
絞るように声を出したコーギーの、それは言葉には程遠い。
「はしたない恰好だな、雨川ァァ‼︎ なんだいその姿は——魔法痴女かぁ! ふしゅう、しゅしゅしゅ」
笑っていると思しき鮫は、大きな口をカタカタと鳴らした。雨川の方へつぶらな眼を向け、だらりと舌を出したかと思うとぐるりと巡らせる。
「アンダー合わせたせいかカップが合ってねえじゃねえか、ポロリもあるでよってか——」
侮蔑を言い終える前に鮫は絶句した。
コーギーが密かに隠し持っていた五寸釘を、鮫の左目へと突き刺したのだった。
悶絶する鮫の腰を両脚で絡め取り、奮ッ、と気合一閃、半回転させ引き離し、その腹を両足で思い切り蹴り飛ばした。
「僕を甘く見るな……」
首を鳴らしながら立ち上がり、地に伏せ呻く鮫を見下ろすコーギー。上下関係が逆転していた。
「血ならいくらでも流してきた。このぐらいは瀉血程度……」
言いながら、ガクンと膝から崩れ落ちそうになるコーギーを雨川が抱き止めた。
「
腕の中のコーギーのふくよかな胸の感触に、雨川は瞬間的に沸騰し、突き放すどころか突き飛ばした。
頭から真っ先に落ち、勢いが強すぎたのか硬い床の上を頭が三〇センチは跳ね上がった。
「あ、あまあわ……」
瀕死のコーギーの、必死の抗議。
「おまえは大丈夫かもしれんが、わたしは大丈夫じゃない。もうわたしの胸は育たない……育たないんだ! 筆力とは違うんだよ、筆力とは!」
怒りを込めて、床で呻く鮫をストンピング。ぐえっ、と吐血する鮫には眼を向けず、睥睨するは犬。
「皆殺しだ! あたしより胸の大きい女も、こそこそと楽しそうにあたしをハブる鮫も、それから……」
パァン、と音がして、雨川のこめかみから血の塊が飛び出した——いや、それは突き抜けた銃弾だった。
糸の切れた操り人形のように、雨川は地面へ落下した。
コツコツ、とヒールの床を叩く音。
新たな闖入者をコーギーは見た。
だらりと下げた手に拳銃を持った、チャイナドレス。
気だるそうにコーギーの方へと歩み寄り、特に視線を向けることなく無造作に撃った銃弾が、鮫の無事な方の眼を貫いていた。ひくっひくっと痙攣する鮫。
そちらには一瞥もくれずコーギーのすぐそばまで来ると、太腿も露わにしゃがみ込んで、その頬を銃身でぺちぺちと叩く。
「ねえ、ワンちゃん……?」
「は、ハイ……」
「おふざけもいいけど、ほどほどにしないと、ね? でないと」
ノールックの一発、いやほとんど重なるようにして撃たれた二発が、死に損ないの反撃をしかけようとした鮫の口へと吸い込まれ、今度こそ本当に鮫は動かなくなった。
「ね?」
笑顔を向けるチャイナドレスへ、コーギーこと血檻は、地べたに頬をつけたまま、うなずく素振りをすることしかできなかった。
眼を逸らすことができない。
そして逸らしたところで目に入るのは、すでに命の灯火の消えかけた雨川の、ほとんど光を失った眼だけだ。
「それじゃあ、ね。楽しかったよ、ぶ、か、つ……」
銃口は向けられたが、銃声は鳴らなかった。部屋にまたしても新たな人影が現れたからだった。
セーラー服に緑の腕章。その腕章には「風紀」と書かれている。
「ぬりや君、もうやめて……!」
と風紀の名を冠した、ユーリ会計は、言った。
「やれやれ。おしっ娘の君にそんなこといわれたくないね……」
普段のにこやかな表情からは想像もつかないほどの冷酷な笑みを浮かべたぬりやに、怒髪天を衝くユーリのシャイニングウィザードが極まった。
血反吐を吐きながらあおむけに倒れる、チャイナドレス姿のぬりや。ちょっともっこりしてる。脚はごまかせても脚は誤魔化せないのだった(?)。
「けっ」
ユーリは唾を吐いた。
「てめえは言ってはならねーことを言いやがった。万死に値する」
「か、会計……」
涙交じりの声のコーギーへ冷たい眼を向け、
「自業自得よ。顧問は……ああ、もうイちゃたの……ヨーソローね。書記は、……まだかろうじて生きてるみたいね。仕方ない」
ユーリは懐(?)からタイガーバームの缶を取り出すと、蓋を開け、使い魔の白虎を
「昔っからお腹や歯の痛みには正露丸、傷にはオロナイン、そして瀕死にはタイガーバームよね!」
死んだはずの鮫まで息を吹き返し、起き上がっていうには、
「さすが中国四千年の——」
「ふふ、タイガーバームはシンガポールよ。顧問にはもう騙されないぞっ☆」
ユーリは笑顔でいい、そうして鮫が眼を覚ますまでの間に白虎に任せて描き終えた魔法陣を、励起させる呪文を唱えた。
「エロイヌ デスサイズ エロアマ エフサイズ もうどうにでもなれ〜☆」
そして空間は白く染まり、全ては元の世界——創作の世界へと還っていった。
どこまでが創作で、どこまでが現実か。
それはそのシステム内にいる存在には感知できない。
いま、これを読んでいるあなたの世界も、また……!
【登場人物及び非登場人物紹介】
犬(ワンコ、コーギー、血檻)……
思いつきで謎の部活を立ち上げ、ぶん
投げた人物。皮をかぶってない時は語尾
に「のす」をつけて話す。三島の生まれ変
わりを自称する、いわゆるアタオカ。
山羊座A型。東北在住。
鮫(顧問鮫)……
部活の顧問。コモンセンスにはやや欠け
ている。本来はさめざめと泣くような女
の腐ったような奴だが、生徒の前では豪
放磊落セクハラ上等の体育教師のような
振る舞いを見せる。○陵高校出身。
山羊座A型。南関東在住。
雨川(ナイチチゲール)……
部活のセクシー🫦担当。乳はないが父
のような包容力はある。激昂すると爆破
しようとする癖があるが、大体未遂に終
わる。喋り始めると長い。隙あらば自作
の宣伝を始める。部活の良心。
天秤座AB型。東北在住。
ぬりや(漆。教祖)……
気づいたら部活にいた謎の男。学生では
ないことが後に判明。四方八方に手を出
しては目移りしてすぐ違う女に手を出す
が、二番目に好きなのは自分。一番はブ
レードランナー。三時のおやつは謎。
なぜ女装していたのかも謎。
誕生月も血液型も謎。東北在住。
ユーリ海老原……
元アマチュアボクシングの世界王者で、
ペレストロイカ政策の折、スラフ・ヤ
ノフスキー、オルズベック・ナザロフ
らと共に日本の協栄ボクシングジムに
入門。
WBCフライ級王者を獲得。
現在はロシアに帰国し、サンクトペテル
ブルクに居住している。
ユーリ会計(風紀委員)……
風紀委員っぽいことに憧れる反政府組織
の一員。夜な夜な火炎瓶作ったり
シンガポールチキンライスを作ったりし
ている。
激重シリアスも激かわシマリスも好きだ
がウサギはもっとすきでぇす! 南無。
天秤座AB型。南関東在住。
PPM先生……https://kakuyomu.jp/users/mukuponpon/news
立花翁……
https://kakuyomu.jp/users/ivchan1202
BLってBLOODの略ですよね?/職人の霊に捧ぐ スロ男 @SSSS_Slotman
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