第8話 炎の残滓、金属の縞
「もしもし素子、想像より土地の傷が大きい。今も気を吸われてる。そっちの準備ができてるならすぐに塞ぐ作業に入ろう」
「紙の名簿は取れました。パソコンは……狙ったんですけど、先手打ってぶっ壊されちゃってました。修復すれば多少はデータが拾えると思います。今からそっちへ向かいます」
二人は手早く中庭に集合した。
「坊ちゃん……マキさんを一人で行かせたんですか?」
「うん。実力からして彼はまず死なない。それに、一人でやれる仕事は一人でやるべきだ」
人数が増えればその分、仕事の幅は広がる。同時に、不測の事態も増える。
避けていることがあるのは、互いに雰囲気でわかっていた。
「……やはり近いのですね」
御道は答えず、ただ視線を逸らさなかった。
「マキさんが人殺しになるのが嫌ってだけじゃないでしょ?」
その問いに御道は少しだけ目を細める。
「素子だって、本当の目的を伝えてない。そういうことでしょ」
言い返せない。狭山は唇を噛み短く息を吐いた。
「危なくなる前に助けに行ける。僕もこれくらいのことは、許されるはずだ」
「……そうですね。わかりました。終わったら、全部話します」
そう告げる声の端にわずかな震えがあった。
二人は結界の準備に取りかかった。
♦
本堂の戸を押し開けると、強烈な熱波が溢れ出る。
三人組が奇妙な灯りに向き合っている。
人間が燃えていると言うよりは人型の炎が胡坐をかいている。
「そろそろ逃げた方がいいだろう。粘るのも限界のようだ」
炎は穏やかに語る。
「そうだね。白虎も熱いのに大変だったろう」
火炎はゆっくりと立ち上がり伸びをする。
「ではみんな健闘を祈るよ」
頭部が牧村を向き、ふと止まった。
「そうだな。君も」
瞬間、火炎が激しく輝き爆風を吹いて、轟音を立て天井から消え飛んだ。
消え去った空からは半透明のドームが砕けて見えた。
残った三人。その中央の男が異様だった。
肌の上を規則正しく力が線を描いて波を打ち、虎の皮の如き輝きが走っている。
「アンタが白虎で……さっきのロケットが朱雀か?」
両脇の二人が庇うように立ちふさがるが、中央の男は気にも留めず応じる
「全く、分かり易い名前だろう」
刀を構え睨みつける。
「俺は牧村仙一だ」
「フンッ、律儀なもんだな」
取り巻きの二人が雄叫びを上げ襲い掛かる。
異常な殺気を放っていた。
瞬間、強烈な金属音が空へ突き抜けた。
真っ赤な鉄の手が刀に嚙みついていた。刺客二人の胴を貫いて。
「――白虎、西城一虎」
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