第7話 冷血さと誘い水

 敷居を跨ぐと地鳴りが響く。

 逃がすわけにはいかないと、山門は敷居を乗り上げの壁へと変貌した。黒い壁は冷たく厳めしく立ちふさがる。

「出口が潰れたか」

「一人も逃がさずに済みそうだね」

 御道は好都合とばかりに微笑む。

 回廊手前の柱に隠れ少し話す。

回廊手前の柱の陰で、短く打ち合わせる。

「マキさん、僕ら陰陽師、妖術師は指で印を組み、間合いを測りながら戦います。指と脚の運用が肝なんです。だから我々が使う武術も知ってほしい」

「俺はどっちでもないスよ」

「いや繊細な指の動きと脚運びは必ず役に立つよ」

 御道はぬるりと回廊のど真ん中に歩み出る。

 銃声。

 牧村が何か声を出すより先に金属音が跳ねた。

「精密な指の動きが、正確な剣術を産む」

 正面。額を貫くはずだった弾丸は鍔に弾かれた。

 畳み掛けるように銃弾が飛び交う。

 御道の指より宙に漂う雫は弾道を撫で逸らす。

 すり抜けるように銃身を斬り、膝裏を払って体勢を崩し、鳩尾へ突きを入れていく。

「我々花咲剛流は、間合いを脚で作り外側を砕き、繊細な上肢で内側を叩く武術です」

「ほら、マキさんも」

「ほらって言っても……」

 バケツをひっくり返したみたいに水をぶちまけられ全身が濡れた。

「……ずぶ濡れなんですけど」

「うん。さあ行って」

 生返事を返すと服に引きずられる。しみ込んだ水分が、操り人形のように手足を吊り上げている。

「抵抗すると大怪我をするかもしれないから気を付けてね」

「……押忍!」敵よりもこの人の方が危ないと思う。

 指示のもと投げ飛ばす刀の柄は構成員の額を穿つ。

 ここから先は空手となる。

 叫びたくなった。

 燃え滾るように胸が熱い。熱を持ったまま頭は冴えて、ロボットのように動く自分を感じた。

 大きく半円を描いて横蹴りを叩き込んで吹き飛ばした。人体は壁を突き破り庭へ飛んだ。

「それが鉈鷹旋たおうせん

 生え際に中指を添え額に掌底を打ち込む。前頭骨より潜り脳を揺らす。

打芯掌だしんしょう

 打撃の感触と共に技を記憶する。

 文字通りに、り飛ばし。殴り倒す。

 指示より速く技が出る。思考の通りに身体が動く。破壊する感覚が骨身に成功を伝えた。

「……本当に向いているんだね」

 周りを見回すがのされた者ばかり。

「ありがとうございます」

 御道は視線を向けずに気絶した者に水をかけていた。

「先に行ってていいよ。素子から道聞いてるでしょ」

 何故だか御道は壁に空いた穴から遠くを眺めてる。

「キミは戦闘は慣れてる。でもどこまでいっても実際に殺さないとわからないこともある。素子には悪いけどマキさんは経験を積んだ方がいいと思うんだ」

 困り笑顔じゃない。冷たく、白い顔で独り言みたく呟いた。

「……だから、いいよ。殺し合って。奥の人と」

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