第32話 そうだ、車だ(1)

「あの二人に『さん』は付けなくていいぞ」

「嫌いなの」

「ああ」


 私の不満げな表情に、サキも「ふう」と長く息を吐きながら座り込んだ。


「あれ、整形とか借金とかの噂でしょ。あの人たち、私のことも同じ噂を流してるみたいよ。おまけに子どもが二人いるとか、笑っちゃうわ」

「ふっ、子どもいるのか?」


 私は初耳の情報に面白がって訊き返す。


「いるわけないでしょ」


 サキは不満そうにそう言うと、私の肩を掴んだ。もう、張り込み中なんだぞ。

 そんなことを思いながらも、振り返るとサキの青みがかったロングヘアが私の顔に絡みつく。

 どんだけ近づいてるんだ、お前は。


「あの人たち、私たちが男性にモテているのが気に入らないみたい」


 その距離で話されると、コイツの長いまつ毛が気になってしょうがない。私は少し後ずさりして距離をとった。


「大丈夫、私が見ているわ」


 サキは耳元でそう言うと、顎でビルを指し示す。

 いや、そうじゃなくてお前の距離感に驚いただけなんだが……そう思うが、ここはサキとそのまま会話を続けることにした。


「私はモテてないけどな」


 実際、ラルにはモテていないし。


「いやね。あんた、男性陣の間で凄い噂よ。親しみやすい美人だって」

「えっ!? ……そんな噂があるのか」


 確かに工場内で姉御みたいな立場なのは、なんとなく分かっていた。他の女性陣がいても、私に男性陣は訊いてくる。

 なんでも屋みたいな立場になっていたが、ただ単にこの容姿が目立つからだと思っていた。この多民族が混在するニホンでも銀髪の女は珍しいからだ。

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