第17話 お前、許さん(2)

 触れた左手に一瞬視線を送ったラルだったが、そのまま何事もなかったかのように廊下の奥を指差した。


「あそこが第一休憩室です」

「はい」


 サキは小さく返事をすると、ラルに体を寄せようとする。だが彼は前へと進もうと、足を踏み出していた。

 引っ張られる右腕に、ラルは振り向く。


「トイレですか?」


 目の前のトイレとサキを見て、ラルは平然と言った。

 その言葉にアイツはにこっと笑うと、小さく頷く。


「ラルさん、初めてなんで一緒に入ってくれませんか?」


 なんだとおおお!

 思わず叫びそうになった私は、歯を食いしばり必死に怒りを抑える。


「ラルと一緒にトイレだと! お前、何をするつもりだ!」


 思わず右手に力が入り、握っていたボールペンがピキピキと音を立てた。


「危ない。また折るところだった」


 過去に何回か折ってしまい、この前も「備品は大切にしてください」と事務のおばちゃんに怒られたばかりだ。

 吸血鬼用の強いボールペンがあればいいのに、と心の中でぼやく。


「大丈夫、普通のトイレですよ」

「で、でも……ねっ」


 アイツは上目遣いでそう言うと、ぐっとラルの右手を引き寄せた。

 なんだその「ねっ」は、誘う気満々じゃないか!

 私は思わず出ていって奴をぶん殴りたくなったが、それをぐっと抑えた。


「隊員同士の暴力は重罰。それは他部隊の隊員でも同じ」


 何度も聞かせられたその規則。私はリストに載った亜人、最悪死罪を言い渡されても文句は言えないのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る