16輪.止まった時計台
イブキがその花御子の名前を声に出した途端、エリカとレンズ越しに目が合うと、望遠鏡が木っ端微塵に壊れる。
「え!?何?何で!?」
隣で急に叫んだイブキにアムが驚き、壊れてしまった望遠鏡を見て更に驚く。
「あっち!」
しかし、イブキに顎を掴まれ空を見るように命令される。
イブキの目線の先を見ると、空に浮かぶ影がどんどんはっきりと見え、ついには肉眼でその姿を捉えられるほどに近づいた。
「イブキ、やぁっと見つけた!昨日ぶり?」
エリカは気味が悪いほどの笑顔を浮かべて、手を振りながらイブキの上にやってくる。
他の群衆もエリカを見上げるが、その友好的な態度に何かの祭りの出し物だと思っているようで、特に混乱は起きていない。
ただエリカとアムだけが顔を引き攣らせている。
エリカはその様子を見て、息を吐いて笑う。
「それにしても、平和ぼけした国ね。中央の方と全然様子が違う。誰から傷つけられるなんて思ってもいない感じ」
うんざりした様子でエリカは呟く。
しかし、ひらめいたと言わんばかりに口を歪ませた。
「……花姫様からは不要に地上を壊すなっていわれてるけど、イブキを探すためだったら仕方ないっていってくれる、はず」
エリカは自分自身を説得するようにごちゃごちゃ言った後、大きく息を吸うと、ハミングを始め出した。
すると、周囲の眼下にある建物や窓ガラスがガタガタ音を立てて揺れ始める。
「あれは?」
「音が来る!伏せて!」
イブキがこの状況を理解し、アムに覆い被さった瞬間、より一層振動が増して広場に衝撃波が駆け抜けた。
人や物が吹き飛ばされ、壁にたたきつけられたり、意識を失いその場に倒れる者。悲鳴をあげて逃げ惑う者。
期待と希望に満ちた広場が、一気に地獄絵図と化した。
「エリカ!!!」
イブキは怒りでホワイトアウトした脳内に浮かぶ、かつての仲間の名前を叫んだ。
「あーハイハイ、そう何回も言わなくっても聞こえてるって。うるさい」
エリカはイブキに目もくれることなく適当な返事を返すと、花羽をはためかせて上昇し、再び歌を奏でては周囲の空気を震わせる。
次々と衝撃波が町を襲い、人々は逃げ惑う。
しかし、逃げた先でも割れたガラスの破片や瓦礫が飛来し、身動きが取れない。
城の方にもこの振動は伝わり、美しいステンドガラスにひびが入ると、粉々に吹き飛んだ。
「サン!」
戴冠式真っ最中の城にも、この広場の騒ぎは届いたことだろう。
城の時計台が傾く。
姫のスピーチまであと一刻で針が止まっている。
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