10輪.寄せ集めの3人組

城下町はピラトの町の賑わいに負けないほど人がひしめき合い、活気に溢れていた。

 至る所に飾り付けがされており、色鮮やかさでいったら恵殿といい勝負かもしれないとイブキは内心思った。

 

 一行は汽車を降りて腹ごなしにと、丸くて茶色い塩味のあるもちもちした食べ物を片手に街を徘徊した。

 傍から見れば同世代の男女3人が仲睦まじく、明日の祭りに浮かれて買い物を楽しむ微笑ましいワンシーンだが、実際はついさっき出会ったばかりの、互いの素性もよく知らない存在同士が戯れているだけなのだ。

 

「あ、待って。この服、イブキに似合いそう。ちょっと入ってみようよ」


 アムがショーウィンドウの前で足を止める。

 そこには、白いロング丈のワンピースを着たマネキンが立っていた。


「確かに。背が高いから着こなせそうだね」

 

「こんな服、一度も着たことがないんだけど」


 サンもアムに同調したが、当の本人だけはあまり乗り気でない様子だ。

 しかし、サンは聞き捨てならないとイブキに詰め寄った。


「『一度も』?冗談でしょう?今まで何着てた訳?」


「あっ、あはは!本当、変な冗談!いいから着替えておいで!」


「いたっ!」


 イブキはアムに強く背中を押され、強引に更衣室に押し込められた。

 時々、こんな感じでサンとの間に微妙な空気が流れることがあっても、アムがうまく交わす甲斐あって何とか平和なショッピングが出来ている。

 イブキは仕切られたカーテンの中でアムに抗議するように口をとがらせたが、小さく息を吐いて衣服を脱ぎ始めた。

 


 

「……長くない?」


「う~ん。確かに。イブキー?大丈夫?」


 サンが手に持っていたジュースの最後の一口を飲み干して口を開く。

 イブキがカーテンの向こう側に行ってからほんの数分しか経っていないが、単なる着替えにしてはえらく時間がかかっている。

 アムも心配になり、イブキに声をかけると、タイミング良くカーテンが開いた。


「ねぇ、これって合ってるの?」


 イブキが猫背気味に姿を現す。

 アムの見立て通り、イブキのスラリとした体躯に細身のワンピースが映えていた。

 

「似合うー!」


「かわいいよ、イブキ!」


 二人があまりにもこぞって褒めてくるので、イブキはどんな顔をすべきか分からなかったが嫌な気分ではなかった。

 ほとんど即決でその服を購入し、その後もアクセサリーや小物など、イブキは二人の着せ替え人形のように街を巡った。

 いちいち店の前で立ち止まり、あーだこーだ言いながら長々と商品を見て回るアムとサンにイブキはひどく辟易した。

 しかし、初めての経験にイブキは心躍り、楽しいひとときを過ごした。


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