第21話(終) ニャムとあたし


『……ったく、ニャムのこと殺す気ニャっ⁉』

 やっぱりニャムだ! ニャムがしゃべった! ニャムが怒った!

 あたしはうれしくなって、ニャムをぎゅうっと抱きしめた。

『コラ! 痛いニャ!』

「もう! 心配したんだから! 急に透明にならないでよ! 居なくならないでよ! ニャムのバカバカバカ!」

『バカとはニャんニャ! まったく! ニャコのせいニャんだからニャー!』

 まだ少しダルそうだけれど、変わらない、懐かしい、大好きなニャムの憎たらしい口調が心にしみる。

「もう……え、待って? あたしのせい?」

 問うと、ニャムはでろーん、と脱力して、

『オーバーヒートしたときに、ニャム、ニャコの計画書をところどころ焼いてしまったみたいニャのニャ。それで――』

「いや、それ、あたしのせいじゃないじゃん。ニャムのせいじゃん」

『ニャニャ! ニャムは計画書としてひっそりこっそりニャコについているだけだったら、オーバーヒートニャんてしていニャいのニャ! ぜんぶぜんぶ、ニャムに出会うって小さく書いた、ニャコのせいニャのニャー!』

 ぽこん、と弱弱しいネコパンチが飛んできた。

 それを避けることなんて簡単そうだったけれど、あたしは避けたくなんかなくて、頭でしっかり受け止めた。

「なんか、ごめん」

『もー! 計画書の再発行請求に、承認にって、いろいろやっていたんだけどニャ』

「ああ、それで死んだみたいに消えていなくなったの?」

『勝手に殺すニャ!』

「事実じゃん!」

『うるさいニャ! っていうか、ニャコ! ニャムはニャコに文句があるのニャ!』

「ニャによ!」

『ニャコってば、いったい何ページ計画書を書いているのニャ!』

「……ふぇっ⁉」

『どうりで頭が重たくニャるわけだニャ。そりゃあ、オーバーヒートもするニャ。ちっちゃい文字をあっちこっちに書いて! しかも、〝別紙参照〟って! 別紙を探したり、復元するのにいったいどれだけの労力がかかったと思っているのニャー!』

 大変だ。あたしには全く心当たりがないけれど、あたしの魂、めちゃくちゃなことをやっていたみたい。

『それだけじゃニャいニャ! ニャコ、ニャムと出会うことは計画しているけど、お別れを計画し忘れていたニャ! どれだけ小さい文字を探しても、別紙ってやつを見ても、どこにもニャい! バカニャのニャ⁉』

 まだ元気が完全に戻っていないように見えるけれど、マグマのように湧き出して止まらない文句をあたしにぶつける元気はあるらしい。

 バカ、バカ、と何度もバカにされる。

 学校とかで言われたら、絶対ムカつく。だけど、不思議。ニャムに言われると、全然ムカつかない。

 あたしはこうしてニャムにバカにしてもらえることが、当たり前じゃないって知っている。だから、ニャムにバカにしてもらえることがうれしくて仕方がなくって、

「あたし、自分はバカってちゃんと計画したもん。だから、バカだよ? ニャムがいないと雪女になっちゃうくらい」と笑った。

『ゆ、ゆきおんニャ……? ニャんの話だニャ?』

「雪女はもうどうでもよくてさ。ねぇ、あたしの未来がほとんどお見通しのニャム」

『どうでもいいのニャ? はニャ~。って、違うニャ! ぜ~んぶおみと~しニャ!』

「はいはい。ぜ~んぶおみと~しのニャム」

『ニャに?』

「どこへ行ってて、どうやって帰ってきたの?」

 問うと、ニャムはきょろきょろと視線を泳がせた。

「もしかして、わかんないの? あたしのことはお見通しなのに?」

『ニャ、ニャんかムカつく! ニャム、ニャコのことしかわからニャいもん!』

「あっはっは!」

『ニャーっ! ニャム、ぷんぷんニャんだからニャー!』

「ニャム……これからも、一緒にご飯食べたり、おやつ食べたりしようね」

『だから、ぷんぷん……って、ニャハハ! ニャコ、食べてばっかり! ニャコは食いしん坊だニャー』

「だって、あたし、計画書の化身と出会って、美味しいものを一緒にたくさん食べるって計画してるでしょ?」

 問うと、ニャムは口をとがらせてそっぽを向いた。

 ニャムは隠すのがへたくそだなぁ。

 ニャムが何を隠しているのか、あたしにはぜ~んぶおみと~し!

 わかりやすいニャムを見るに、たくさん食べるって計画したわけではなさそうだ。それなら、仲良く過ごす、とかかな。

 ニャムの存在って、みんなに通じるような言葉で言い表すとしたら、守護霊、とかになるのかな。

 でも、ニャムは霊みたいだけど霊じゃないから……守護計画ネコ?

 ニャムと出会って、ニャムと仲良くなるまでの間、未来にはどこか不安があった。時々、この沼はもしかしたら底なし沼なのかもしれないって思うような絶望に、つま先を入れてしまったこともある。あたしがセンサーを働かせて、障害になりそうなことを避けるようになったのは、たぶん、そんな日々を過ごしていたからだ。

 だけど、そんなことはもうしなくてもいいような気がする。

 ニャムと一緒なら、なんでも乗り越えられる気がする。

 ニャムが一緒にいてくれる中で起こるトラブルは、あたしがもっともっと幸せになるための試練で、あたしが乗り越えられるとニャムが信じて見守ってくれるハードルでしかないような気がする。

 だから今、あたしの未来は、超安泰って感じがしている!

 未来へ向かって進んでいけることに、ワクワクが止まらない!


 あたしは今日も、あたしのことをおみと~しなネコに見守られて、どんな時もひとりぼっちになることはなく、ニャムがいてくれるっていう安心感を抱きながら、今この瞬間を生きている。

『ニャコ。今日は席替えをする日だニャ』

「あ……そうだった。あーあ。シュンくんとお別れかぁ」

『……ニャッニャッニャ』

 ニャムがなんだかニヤニヤしている。そんな顔されたら、あたし、未来に期待しちゃうじゃん?

 希望いっぱい、

「行ってきます!」

 玄関を飛び出したとたん、バケツをひっくり返したような雨が降り出した!

『ニャハー! ニャム、雨嫌ーいっ!』

 雨のせいかな。なんだか細身になった気がするニャムが、あたしのカバンに飛び乗った。

 ほんのり重くなった気がする背中に幸せを感じながら、傘を広げて歩き出す。

 朝だっていうのに、空は夜へ向かうようにどんどんと暗くなっていく。靴が雨に濡れて、びちゃびちゃになる。どんよりとした空気が街を包む。

 だけど、ニャムと一緒にいられているあたしの心は、そんな空気に負けず、今日もぴかーん! と輝いている!













  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ニャムにはぜんぶおみと~しっ⁉ 湖ノ上茶屋(コノウエサヤ) @konoue_saya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ