探偵の犬である〜特別編「タケノコ掘りに行こうよ」
なるみやくみ
第1話 出発
春になると楽しみなことの一つがタケノコだ。
え?お前は犬だろう?
犬がタケノコなんて食べるわけないだろうって?
食べるんだよ、これが。
僕はやわらかい穂先の辺りを薄めにスライスしてもらって食べるのが好きなんだ。
あの鈍い飼い主もその食べ方が一番好きだと気づいたのか、いつもそうして出してくれる。
もちろんしっかりアク抜きしてからね。
そのタケノコは、飼い主の友人が毎年のようにくれるんだ。
え?いい友人がいて羨ましい?
うん、まあ、確かにね。
飼い主が車を停めると、少し離れたところから人が近づいてくる。
タケノコをくれる人だ。
「来てくれて助かるよ」
窓の外から僕らに声をかけたタケノコをくれる人の腕には、包帯が巻かれていた。
「いつももらってばかりだからな。たまには手伝わないと」
いつももらえるタケノコは、このタケノコをくれる人の親父さんが持ち主になっている土地にできているものらしい。
ここ数年はタケノコをくれる人がタケノコを掘るのが役割だったが、今年は腕を怪我してしまったと聞いて、僕らが手伝いに来たってわけ。
本人はこれくらい大丈夫って言ってたらしいけど、念の為。
僕は何を手伝うんだって?
何言ってるんだ。
犬は掘るのが得意なんだぞ。
飼い主が車のドアを開けて僕を降ろす。
今日は晴れていて程よく暖かい、きっとタケノコ掘り日和だ。
日差しは強すぎず、風とともに僕らを包んでくれる、そんな感じがする。
周囲は木々に囲まれていて、僕らが住んでいるところとはまったく違う景色だ。
空気もまるで違う。程よく風が吹くとさらに気持ちが良い。
僕もこんなところに住みたいな…
そう思ったけれど、それ以上は考えないようにした。
考えても仕方ないもんね。
車を降りたところからタケノコがあるところまで10分ほど歩いていくらしい。
タケノコをくれる人は「悪いなぁ」なんて繰り返し言っていたけど、最近運動不足だったから丁度いい。むしろもう少し歩きたいぐらいだ。
ぽかぽかと暖かくて気持ちいいな。
こういう日に外に出るとなんだか元気が出る気がするんだ、なんでだろう。
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