『堕天使』と『魔物』の間で……②

 弓弦が異能観測同好会に顔を出し始めて、まだ3日しか経っていない。

 しかしその3日間で、彼は真人と理人の人生観を揺さぶる所業をやってのけた。


 光成学園の一角にある、あまり人目につかない工房兼倉庫のような場所。夕暮れの西日が差し込む薄暗い室内で、異能観測同好会の新顔ニュービー在原弓弦ありはらゆづるが黙々と作業を続けている。


 散乱する部品、工具、設計図。

 その中央で彼の指先は、極めて繊細かつ無駄のない動きを繰り返し、次々とパーツを組み上げていく。

 卓越した手先の器用さと圧倒的な技術力は、まるで魔術師のごとく無機物に命を吹き込む。細部への拘りは狂気的とも言えるレベルで、一つ一つの部品に魂を込めるような丁寧さだった。


「これで……完成っと」


 弓弦の声は静かだが、その瞳は不敵に輝いていた。

 机の上に鎮座するのは、全高約15cmの1/144スケールの小型ロボット。その名も『漆黒の機動兵装TypeΩタイプオメガ』。


 細部にまで精密に造形され、関節の動きも滑らかだ。装甲の継ぎ目、武装の配置、センサーの配列まで、すべてが計算し尽くされている。通常なら完成に数週間はかかると言われる精密機械だが、彼にかかればわずか3日で立ち上がる。まさに『完璧超人』の名に恥じない手腕だった。


「よし、次は起動実験だ」


 彼は手をかざし、機体のスイッチに触れる。すると、小さな光が基盤を駆け巡り、ギシリと小さな関節が動き始める。内蔵されたマイクロモーターが静かに唸りを上げ、LEDの瞳が青く発光した。


「……おおっ!」


 弓弦はにやりと笑った。

 その表情には、一種の少年のような好奇心と大人の冷静さが入り混じっていた。技術と情熱の融合がここにある。創造者としての満足感が、彼の端正な顔立ちに浮かんでいた。


 一方、その様子を息を飲んで見つめる奴等がいた。

 もちろん異能観測同好会の新谷真人と古谷理人だ。二人は工房の隅っこで固唾を飲んで見守っていたが、完成の瞬間を目撃すると、いつものように場違いなほどテンション高く、奇声混じりのオタクトークを展開し始めた。


「やったな、大佐殿! 在原氏の技術力は、やはり異次元だ! 3日でこの完成度は、まさに闇の科学の結晶だ! これぞ真の技術革新!」

「うむ、真人氏。このメカは我々の空想の産物を具現化し、さらに遥かに上回る実力を秘めている。彼の参加で我々の異能観測同好会は真の意味で『秘密結社』たらん! 世界が震撼する日も近いぞ!」


 二人は目を輝かせ、そして期待に胸を膨らませ、テーブルの上の『TypeΩタイプオメガ』を覗き込む。間近で見ると、その造形美はより一層際立って見えた。


「脚8本は、連携させるのが難しいから2本はマニピュレーターにして常時稼働可能にしておいた。つまり高速移動しながら攻撃も可能って訳だ。武装はビーム砲を2門、近接戦闘用のブレードを4本装備している」


 弓弦の詳細な説明に、真人と理人は「おおっ!」と感嘆の声を上げる。


「これはまさにモ〇ルアーマーと言えるだろう! いや、それ以上の存在感だ!」

「まさにこのスケール感はガン〇ラだ! しかも可動範囲が尋常じゃない!」

「『TypeΩタイプオメガ』量産の暁には、連邦なぞあっという間に叩いてみせるわ! 我らが野望の第一歩となろう!」


 どこぞの強面の要塞司令のような台詞を吐き、真人は悦に入る。

 理人は嬉しそうに眺め、時折「このマニピュレーター関節はもう少し……」「この装甲パターンは実に芸術的だ」などと細かい注文や感想を付ける。


「ついに時は満ちた。我らが妄想は次元の壁を超え、三次元世界へと具現化する……! この機巧が目覚めれば、真理の観測も思いのまま。まさに我らが夢幻兵装の黎明だ! 新時代の幕開けである!」

「さあ実験開始だ! 大佐殿。だが慎重に……『E〇A』のような暴走機能だけは勘弁願いたいがな。制御不能になったら元も子もないからな」

「フッ、問題はない……闇の力の真価を見せる時が来たまでのこと。完璧なプログラムが組み込まれているからな」


 奴等の会話は、まるで一般人には理解できない異世界の呪文のように聞こえた。

 だが、確かな情熱がその言葉には宿っている。三人の心は一つの目標に向かって燃えていた。


 この者達の目標はただ一つ!

 3日前、スケッチブックに描いた夢を無惨に切り裂いた風紀委員……『粛清の天使』どもに一泡吹かせる事だ。

 対高嶺ひかる&美山玲子決戦兵器として、この世に顕現した『TypeΩタイプオメガ』は、今、マッドサインティスト弓弦の手により、机から床へ降り立ち、六本の脚をカシャカシャ鳴らしながら前進を開始した。


「えっ……?」

「へっ……?」


 直後二人の瞳が大きく見開かれた。本当に動くとは思っていなかった。奴等の『妄想が生み出す仮装空間』ヴァーチャルワールドの中で自在に動き回る姿を想定していただけだ。


「歩行走行試験問題なし……完成だね!」


 小さな機体ロボットだが、外装、関節、武装の細部に至るまで異常なまでに精巧である。歩行パターンも自然で、まるで生きているかのような滑らかな動きを見せている。


「…………」

「…………」


 真人と理人、声もなく凝視。感動で言葉を失っていた。そして……


「ロボ来たああああああっ!!!」


 同時に爆発するオタク的歓喜。工房全体に響き渡る雄叫びだった。


「大佐殿ッ! 我等の妄想が、ついにバ〇ダイの正規ラインを超えたぞ! これは歴史的快挙だ!」

「これは……もはや公式越えの黒歴史的聖遺物! これは『サイタマ』の名を冠するしかあるまい! 伝説の始まりだ!」

「うんうん! ガ〇ダム、大地に立つってとこかな?」


 弓弦が笑顔を見せる。

 すると二人は机を叩きながら『彩玉ポーズ』を取り、喜びを分かち合った。その様子に、弓弦は「喜んでくれて何より」と爽やかに応えた。


 これは単なる模型ではないという事実が奴等を興奮状態にさせている。さらに弓弦は、机の端から小さなコントローラーを持ち上げて操作する。


 すると『TypeΩタイプオメガ』が、ギギギと関節を動かし、2本のマニピュレーターが天空目指して屹立する。その様まさに天界を仰ぎ見る古代いにしえの英雄の如く!


「うおっ! こいつ……動くぞっ!!」

「異能駆動キター!!!」


 もはや何をやっても狂乱する二人、もはや半泣きで机を叩く。奴等にとって、これは神話の実証と同義だった。夢が現実になった瞬間を目撃しているのだ。


「でも、激しい運動はダメだよ。反動で外装が外れてしまうから、絶対に・・・激しく動かしたり蹴飛ばしたりしないようにね。大事な事だからもう一度言うよ。絶対に乱暴に扱っちゃダメだ」


 まるで何かのフラグのような台詞で念を押しながら、弓弦は奴等にコントローラーを渡す。その涼やかな表情の奥で彼の瑪瑙色の瞳が煌めいた。


「無論だ!」

「我等がフラッグシップマシンであるぞ、手荒になどするものかよ! そもそもこの機構は……(以下省略)」

「ヲイ! ちょ……ま……!」


 奴等の感動と長い蘊蓄うんちくに延々付き合っていると話が一向に進まないので、今回は作者権限で強制的に幕を引かせていただくとしよう。

 ではまた次回。


                  <To be continued>



「おのれ作者あさぎり氏! この偉業を愚弄するに及ぶかっ!?」

「我等の遺恨覚えたか!?」


 ええい、やかましい!

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