第二話

『堕天使』と『魔物』の間で……①

 放課後の光成学園高等部メディア部部室。その片隅は、今日も異様な熱気に包まれていた。

 そこに陣取る不審なオーラを放つ二人の影があった。もちろんその影の主は、陰の極限に位置する者を自称する新谷真人と古谷理人だ。


 机の上にはノートPC、プラ板、半田ごて、そして謎のスケッチが無造作に散乱している。まるで文化祭準備の最中かと思えば、実際はまったく違う。反省の色をまるで見せない『奴等』だ。

 今後この二人をそう呼称するが、奴等は今、己の妄想を現実に引きずり出す作業に没頭していた。


 本来なら、ここに奴等の姿はない……筈だった。

 何故なら、つい先日「舞姫の『秘されし闇のヴェール』観測作戦」を遂行しようとして『堕天使ルシファー久遠友瑠』に発見され、捨て台詞を吐きつつ、自らこのアジトを放棄して逃亡したのだ。


 山のような反省文を提出した奴等は、反省どころか当たり前のようにこの部室の一角に舞い戻ってきた。

 何の後ろめたさも感じない清々しい表情で、いつものようにメディア部の部室に入り。いつもの席を占拠していた。

 まさに厚顔無恥、傲岸不遜、笑止千万の自分ファースト主義者達である。


「大佐殿よ、我が新兵器……『漆黒の機動兵装TypeΩタイプオメガ』のコンセプトを聞くがいい!」

「ほう……またしても貴殿の狂気の産物か。申してみよ」


 真人がスケッチブックを高らかに掲げる。

 そこに描かれているのは、肩から無数のブースターを生やし、両腕にドリルに換装可能なマニピュレーター、背にレーザー砲を三門備えたロボット……絵的に見ても明らかに重すぎる装備の塊だった。


「見よ! これぞあらゆる学園のことわりを覆す終末機構ラグナロクシステム! 飛行、潜水、地中掘削、全方向レーザー掃射……可能なり!」

「だが、真人氏。それでは推進系統が四つも重複しておるではないか? この重量……」

「無粋であるぞ、大佐殿……『おとこ浪漫ろまん』こそ至高!」

「うむ……『おとこ浪漫ろまん』ここに極まれり、という訳であるな」


 自らの嗜好を『おとこ浪漫ろまん』と誇らしげに語り、胸を張る真人。それに理人も「我等が野望は、かくも浪漫を駆動源とする」と頷き、彩玉県民の決めポーズである『彩玉ポーズ』を取った。


 両手を『OKサイン』の形にし、それを胸の前でクロスさせ、左足を少し前に出す。そして手の形は、彩玉県の県鳥『シラコバト』の羽根を表現しつつ、人差し指と親指の輪は『玉』すなわち彩玉をイメージして作られている。

 真人も彩玉ポーズを取って、理人に応じ、その後ハイタッチをする。


 奴等のテンションの高さと頭の回転の速さ逢坂の芸人顔負けだが、真人は川肥市、理人は常呂澤市出身であり、逢坂はおろか、関西とは縁も所縁ゆかりもない。

 二人の会話はさらに加速する。


「この肩部ミサイルポッドは、高嶺氏の笑顔防御用バリアを打ち破る仕様だ」

「ならば美山氏の氷結視線にも耐える耐寒シールドを追加せねばなるまい」

「了解! それなら脚部は二足では足らぬ。八脚にする!」

「おお、蜘蛛型ロボ……闇属性感が増すではないか!」


 さらにスケッチを書き換えていく。フォルムが人型から不気味な昆虫へと変化していくが、奴等の口角は上がりっ放しだ。


「それ……多分動かないよ……いや動けない……かな?」


 その時、二人の心に冷や水を浴びせ掛けるバリトン声が割って入った。これで二度目だ。聞き覚えのある声に、二人が恐る恐る顔を上げると、そこにはまたしても『堕天使ルシファー』が立っていた。


「ひっ……く、久遠氏!?」

「我等の行動を読んでいた……だと!?」


 条件反射的に二人は逃げ出そうとする。しかし、メディア部撮影班所属の彼は、カメラバッグを肩に提げたまま、静かに奴等が描いた『ラクガキ』に視線を向けていた。


「推進機関が四種類もあって、重心が高い。しかもエネルギー源が不明。脚も不自然な場所に8本あって、どう見ても動きが連携されない。結果、移動しようとした瞬間に前に倒れるか、自分の脚を綺麗に撃ち抜くだろうね」

「なんと……」

「……まさか……」


 真人と理人、沈黙。さっきまでのハイテンションが霧散し、机上のスケッチブックを閉じる音がやけに重い。


「失敗だ、大佐殿……」

「然り……科学の徒は、時に『おとこ浪漫ろまん』を無惨にも切り裂く……」


 鋼のメンタルの二人だが、この時ばかりは肩を落とし、打ちひしがれたように机に突っ伏した。


「なんかごめん……余計な事言っちゃったね……」


 友瑠はバツが悪そうに、二人から離れ、写真ブースで撮影機材をチェックしはじめた。

 しかし、奴等は諦めない。


「ならば……科学を超越した超科学! すなわち『異能駆動』とすれば良いのだ!」

「おお、それだ!」


 復活の早さはもはやゾンビ級である。

 そんなやり取りをしている所へ、風紀委員の二人。ひかると玲子がメディア部室にやって来た。


「久遠君、いる?」


 友瑠が部屋の奥でカメラの手入れをしながら手を挙げ応じると、ひかると玲子は笑顔を浮かべて近づいた。


「今度の試合の件なんだけど」

「また、撮影協力して欲しくてさ……やっぱり部員の子が撮ると試合中の臨場感が……」


 言い掛け、その手前に不審な二人組がいるのに気が付いた瞬間、二人の顔が急に冷ややかなものに変化した。


「……ここで何やってるの?」


 ひかるが図面を覗き込み、玲子は訝しげに眉をひそめた。


「……また妙なこと考えてるんでしょ? 今度は何?」

「否! 我等は学園の平和を守るべく、闇の機構を構築しているのだ!」

「平和守るって……そのマジックハンド?……どう見てもスカートの裾を狙ってる形に見えるんだけど?」


 ひかるの直球に、真人が「ぐっ」と詰まる。理人も目を逸らし、机上のスケッチを慌てて裏返す。

 玲子は深い溜息を吐き『関わったら面倒な奴等』という視線を友瑠に送る。


「これが二人の平常運転って思えば良いよ」


 友瑠は、静かに玲子に応えた。その時、部室の扉が再び開き、一人の男子が現れた。


「おーい、トモッチ居るか? 覇樹の奴が、帰りにゲーセン行こうってさ、お前も一緒に行くだろ?……って、あれ?」


 赤味の強い灰色の髪を幾つも跳ねさせ、制服の着こなしも見事な男子生徒がやって来た。

 彼こそ光成学園高等部で女子人気ナンバー1の男子生徒『在原弓弦ありはらゆづる』であった。


 男子バスケットボール部のエースプレイヤーであり、随一のポイントゲッター。顔立ちもアイドルのように非常に整っており、友瑠と同じような細マッチョ体形でありながら、彼より一回り大きく、まさに王子様だ。


 突然の王子様登場に、ひかるが「わぁ……」と小声を漏らす一方、玲子は腕を組んで無言の警戒を示す。彼の行く所、必ず後を付ける女子生徒達が隠れ潜んでいるからだ。


「おお、誰かと思えば……えっと、何だっけ? 異常研究会・・・・・?」

異能研究会・・・・・……間違えると怒るよ」


 友瑠が二人の活動名を訂正して弓弦に応えていたが、実はそれすらも間違っている。しかし、当の真人と理人は、硬直していた。


「『光の魔物』……だと?」

「このようなスラムに何故、顕現するのだ……?」

「スラムって……」


 友瑠は絶句した。勝手に入って巣を作っておきながら何たる言い種か?

 しかし二人の脳内は大混乱している。激しく警戒警報が鳴り響いている。美形で人当たりが良く、多くの女子にモテる強キャラでカーストの上位者。

 それは彼らにとって、『堕天使ルシファー』よりも危険な存在である。


「へぇ、『漆黒の機動兵装TypeΩタイプオメガ』……ねぇ……」

「何……だと……!?」

「いつの間に!?」


 気付けば理人の手に握られていたスケッチブックは、呆気なく弓弦に奪われていた。バスケットボールで相手からボールを奪う事に長けている弓弦にとっては、日頃から運動していない理人から奪う事など造作もない。

 慌てて取り戻そうとジタバタする二人に向かって、弓弦は目を輝かせて微笑んだ。


「これさ……面白そうだから、俺も混ぜてくれない?」


 にこやかに言う弓弦に真人と理人は、目を丸くした。


「な、なぜ我等に接近する……?」


 訝しむが、同時に胸の奥がざわつく。

 こうして、異能観測同好会は新たな『魔物』を迎え入れることになったのであった。


                  <To be continued>

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