第14話 後悔の風呂掃除までがセット *律視点
仕事で遅くなって、夜中の2時頃に帰ってきた時のこと。
疲れたのか、寝落ちしてた美尊をベッドまで運んだところで行こうとすると、シャツの裾を引っ張られた。
「どこ……行くんですか」
「……風呂」
一緒に入る? って冗談で聞けば、こくりと頷いてゆるゆると体を起こす。
……寝惚けてんのかな。
立ち上がろうとしてるから、なんとなく手を差し出してみる。そうしたら緩く掴んでこっちですよって案内しようとするんだけど、ここ俺の家だし。
まぁいいかと思いながら付いていくと、半分夢の中なせいか躓いて。抱き止めると恥ずかしそうにへらりと笑う。鼻を掠める香りは、もう彼女だけのものじゃない。そのことに小さな満足感を抱いて、情が移ってるどころじゃねぇなと呑気に考える。
ぼんやりと見ている中で、ありがとうございますってまた前を向いて歩き出してるこの子の首が、ずっと赤いままなことに気付いて。
……あぁこれ、たぶん、意識とんでない。
「ひゃ、!」
「……そんな反応できんの」
なんとなく。なんとなく寄せてみた唇をうなじに押し当てると、びくりと揺らして。
いい反応するよなぁって舌を這わせて吸ってみると、動じないようにがんばってるみたいなんだけど、繋いだままの手は強く握られるからあんまり意味ない。握り直すように指を絡めると、ようやくそのことに気付いたようで。ほどこうとするから掴んで引いて、後ろから抱き締める。
「美尊」
「い、いやです……」
「まだなんも言ってないけど」
どんなこと期待してんのってからかうけど多分、答えを聞くまでは待ってられない。
「ほら、風呂入るんだろ」
「お、お先にどうぞ」
「一緒、な」
取り敢えず着せとけばいいと思って渡してたデカいTシャツ。夜だからか、上も付けてなけりゃ下もガードゆるゆる。そういうことするつもりじゃなかったけど、今さらながらに性癖刺してきてるよなとか。
焦らすみたいに頭にキスを落として、耳を撫でて、手悪さ程度に触れる。熱はすぐに上昇して、簡単に溶けて。
「はいっ……て、…………クダサイ」
妖怪みたいな言い方すんじゃねぇよ。噴き出しそうになったわ。雰囲気ぶち壊しだけど、それはそれ。本人は必死だから、俺が笑いそうになってんの気付いてないし。言わせたいから、あえて投げかけてみる。
「ん? ちゃんとねだってよ」
「……っ」
教えたろ、やり方。そう言うと、くるりと振り返って、その勢いのままへったくそなキスをされた。衝突事故かよ。んで、赤い顔に潤んだ目っていうド定番。……外さないよな、お前。
約3週間。あの日からちょっとずつ慣れるように日常に呼び込んでいってた行動が、こんな風に返されるまでになったよ。……長かったような、短かったような。やってたことはそれだけじゃないけど。まぁ、習慣になるとすれば妥当か。
すぐに返さないで言葉を待ってやれば、何度か口を開きかけて、はやい瞬きを繰り返したあと。
「いっしょに、……入ってください……」
尻すぼみになって、下を向く。
思ったのは、やっぱ定番はそうなるだけの破壊力があるっていう再認識みたいな。教えたこと実践できてえらいと思うよ。
「……ん、いいよ」
でもまずは、キスの仕方から教えようと思って。……歯ぶつかって衝突事故寸前なの、フツーに危ないから。
形を確かめるみたいに押し当てた後から、じわりと侵していく。逃げられないように、少しずつ深くして。それしか考えられなくなればいいと思う。
なんとか応えようとしてるのが分かったから。普通に目的とかどっかいく。このぐらぐら揺れてる理性にどうトドメを刺されるのか、てのが楽しくなってきてる。
──無茶させちゃダメよ?
なんて、脳内でずいぶん前に忠告されたことを思い出す。
……まぁ、思い出したところで、ってやつ。
だからたぶん美尊は明日、……つーか今日は動けないだろうし、その連絡を受けたクラブの女は、だから忠告したんだと言いながら興味津々な顔をして詮索してくるんだろう。マジ面倒くさいけど言い訳する気にもならない。
「ふ、服は着てちゃダメですか……」
「好きにすれば」
「……なんで無効化される気しかしないんだろう」
この期に及んで諦めの悪い提案。どっちでもいいよ、別に。無効化ね。確かに、着てても脱がせるの楽しそうだなとは思う。透けてんの煽ったらどんな反応するんだろうな。
「……なんでそんな借りてきた猫みたいになってんの」
「律さんの方が猫っぽいですよ……!」
「え……あぁそう、」
ちゃぷ、と揺れる水面の音が響くくらいには、大人しい。ズレたことが返ってくるあたり、軽く思考が混乱しているらしい。これはハードル高かったかなと小さく反省。湯船に浸かる時に足の間に座らせていると、濡れた服越しでいつもより鼓動がよくわかる気がした。
「……これ、なに」
「あ、……割れたグラス、片付けてるときに、切って……ぇ、えぇあの、律さん……っ?」
左手の人差し指に滲んでいた血。咥えてじゅっ、と吸い付けば、こちらに向けられた赤い顔は、涙をいっぱい浮かべて、ふるふると今にもこぼしそう。もう片方の腕で顔を隠そうとしてることからも、羞恥心が丸わかり。
ここで強い抵抗じゃなくて耐えてんの、俺への気持ちが見えてホントずるいなと思う。
「なんで照れてんの?」
「やってること、……ん、思い出してから、言ってください……っ、」
わかってるよ。
お前が恥ずかしいと思うこと全部見せろ。俺のこと好きだって思ってる感情ごと引きずり出せるようなもんが見たいんだよ。こんな風に。まだ一方的に壊さないで反応見ながら進めてんのは、そのギリギリを見極めるためでもある。ホントらしくねぇけど。
「……なんも怖いことしないから。きもちいいことだけ」
「あ、ぅ……それが、こわいんですよ……」
「だいじょうぶ」
なーんも大丈夫じゃねぇけどな。
やってることも、俺の我慢大会も。いっつも寸止め。だから気付いたら、ていうので進めるのが一番いいんだよ。ゆるゆる進めて、ちょっとずつ慣らして、別の方に刺激分散させながら時間かけてさ。やっと快楽拾うようになってきたあたりで、もう本人はゆで上がってる。
これで終わりなんてあまりにも報われないよな、俺が。だから好きにやらせろって言うつもりもないけど。泣かない程度でゆるしてやるから、がんばれよ。
「脱いで」
正常な思考を奪うように口付けて、その合間に命令を差し込む。
蕩けたような甘い琥珀が、俺の目をよく捉えている。なにを考えているのか、読み取れはしない。ただ、少し身動ぎした後に、俺の首へ腕を回しながら艶やかに笑って。
「……ぬがせて、りつさん」
なんてことを平気で言うものだから。
ぶち犯されたいの、お前。なんで煽ってるはずなのに俺が煽り返されてんのか意味わかんない。これが成長だというなら、確かに順調なんだろうよ。自覚無いんだろうけど。タチの悪ぃ赤ちゃんだな。意識あるなら言葉の責任、とってみろよ。
「……いいけど。何されても、文句言うなよ」
はい、なんて喘いでんのか返事なのかよくわかんない返しがあったけど。ちゃんと聞き取る前にこいつからすり寄って身体押し付けられたせいで理性飛ばしたから、あんまり覚えてない。途中でやりづれぇなと思ってベッド運んだことまでは朧気に。
「びっしょびしょ……律さん、連帯責任ですよ」
「……わかってるよ」
そのせいで、朝の掃除と美尊の上司からのうざい詮索で後悔する羽目になる。
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