第4話 仙狸(せんたぬき)

「仙狸(せんたぬき)」


伊豆の国。 江川邸。

屋敷の裏門が額縁になり、そこから富士山が見える。


資料館となっている屋敷へ続く道。

日を浴びて白っぽく見える。

よく手入れされた生垣と小砂利を薄く敷き詰めた平らな白い道。

両脇の生垣の下側に、何か動く物がある。

毛並みの悪い何かが。 何だろう。 緩慢に動く。

立っているのか、すわっているのか、体が揺れている。

そのうち草木の奥の方へ、見えなくなる。


何代も続く家の歴史。

資料館職員の熱のこもった説明に、心を動かされる。


屋敷の裏に池がある。

自然そのままで、余り手が加えられていない。だからいい。

庭には、赤く色づいたもみじ。


池の向こうに何か動く物が見える。

体が全部さらけ出されている。

狸だ。年老いた狸。体がぼろついて、揺れている。

前足をつくのも辛そうに、倒れそうだ。

乱れた毛の中の目は見開いている。

昔からここにずっと生きているのかも知れない。

そう感じるほど、思うほど、

仙狸。

片手に枝を、地べたについているように見える。

仙狸。 斜面の繁みに入っていってしまった。


江川邸 狸の姿に生きている 長い歴史を 後々までも

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