第3話 名前で呼べたら

放課後。

俺は昨日の“呼び名”の件が頭から離れず、全く授業に集中できなかった。


「神谷くーん」

背後から聞こえた声に振り向くと、さくらがにこにこしながら立っていた。

「今日もカフェ行こ?」

「……いいけど」


いつもの「Cafe Soleil」。

俺たちは窓際の席に座り、各々注文を終えた。


「で? 呼び名、決まった?」

「……その、まだ……」

「じゃあ、今ここで練習してみよっか」

「いや、練習って……」


彼女は頬杖をつき、じっと俺の目を見る。

逃げ場なし。


「……さ、さく……」

「ん?」

「さくら」

「はい、よくできました」


ぱっと笑う彼女の顔が、なんだか少し照れてるようにも見えて、俺まで変に意識してしまう。


そんなとき――店の入り口から見覚えのある二人組が入ってきた。

……クラスメイトの中村と田中。


「あれ? やっぱりお前らだ!」

「またデートしてんじゃん!」


店内中に響く大声。

さくらは吹き出しそうになりながら、俺の方を見て口パクでこう言った。


――「デート、だって」


その瞬間、俺の心臓は限界を迎えた。

……これ、絶対からかわれてるだけなのに、なんでこんなに嬉しいんだろう。

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