第2話 自己洗脳、実験開始

――真夜中。

寮の自室で、俺は机に向かっていた。

目の前の羊皮紙には、ゲームで知っている限りの《洗脳》の仕様を書き出している。


対象の精神に命令を刻み込む。


成功すれば、その命令は絶対。 一生使われる駒になる。


失敗すれば、混乱・発狂・死亡。


魔力量の消費は、命令の規模と深さに比例する。


そして何より――自己対象にも使用可能。ただし、精神耐性がゼロの場合、命令は永久に消えない。


「つまり、失敗したら一生バカになるってことか……」


笑えねえ。だが、やるしかない。

卒業前に主人公に決闘で殺される未来を変えるには、今の俺じゃ絶対に足りない。


深呼吸をし、額に手を当てる。

魔力を集中させ、自分の意識に直接干渉する。


「命令――痛覚を七割カット」


体の奥がズンと痺れ、吐き気がこみ上げる。

爪が食い込み、指先から血が滲む――だが、確かに痛みは薄い。成功だ。


……だが、感覚が狂う。

自分がどれだけ動いたのか、どこを傷めたのかが分かりづらい。

慣れなければ戦えない。


「命令――集中力を極限まで高めろ」


世界の輪郭がくっきり浮かび上がり、音が鮮明に耳へ流れ込む。

考えが高速で巡り――笑みがこぼれる。


二つの命令が同時に機能している。ただし、魔力の消耗も激しい。


その時、廊下から足音が響いた。


ゲーム知識が警鐘を鳴らす。

今の時期、〈黒犬〉の間者が学園に忍び込むイベントがあるはずだ。

原作では、主人公が偶然発見して撃退――その功績で信頼を得る。


「よし……物語、ちょっと壊してみるか」


音もなく廊下へ踏み出した。

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