僕は殺人を犯したあの日から、あの日の亡霊に蝕まれています。
でくのぼう
人を殺めた僕を、あの日の亡霊は許してくれません
※この物語はフィクションです。
実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
作中の行為は決して現実で真似しないでください。
亡霊や怪異の存在については、読者の想像に委ねます。
ーーー
突然だが――俺は罪を犯したことがある。
人を殺めたんだ。それも一度だけじゃない。何度もだ。
「もうやめよう」
「負の連鎖から抜け出そう」
そう何度も思った。実際、抜け出せそうになったこともあった。
だけど、ふとした瞬間に衝動を抑えられなくなる。
まるで、これまでの決意も積み上げてきたものも、頭からすっぽり抜け落ちたかのように――。
一度もらったチャンスを、自ら捨て去るように。
衝動が出てしまったら、もう止められない。
そのせいで、何度もチャンスを無駄にしてきた。
みんなは俺を理解できないだろう。
でも、俺が抜け出せないものが“たまたま殺人だった”だけなんだ。
分かりやすく言おう。
酒やタバコ――未成年は禁止されているが、それでも我慢できない奴はいるだろ?
しかも中毒性がある。
そういう奴は、俺と似たところがある。
ただ、やってることの重さが違う。それは分かっている。
彼らを大悪党みたいに言うつもりはない。ただ、少しは分かりやすくなっただろう?
俺はいけないものに手を出して、抜け出せないんだ。
だが今回は違う。俺は更生して、1から……いや、マイナスが多すぎて0すら見えないかもしれない。
それでも、俺は俺なりにまた最初からやり直すつもりだ。
今、俺が外に出られているのは、弁護士や家族――みんなの支援のおかげだ。
だから、その気持ちを裏切っちゃいけない。
……でも、恐れていることがある。
俺が変わろうとしても、罪は消えない。
【あの日の亡霊】が、俺を蝕む。
俺の周りには、見えない影から俺を見つめる亡霊がいる。
ふとした瞬間に、俺を蝕む。
「頼む……やめてくれ……」
心の中でそう願うことしかできない。
本音を言えば、もう二度と出てきてほしくない。
俺のせいなんだがな……。
亡霊はいつ現れるのか――それすら分からない。
~~~
「おーい! いつまで寝てるのー?」
「ん? 今何時……やべ! もうこんな時間か!」
「おはよう! やばい、遅れるわ! 朝飯大丈夫! ごめんね!」
「はーい、気をつけてね」
俺は更生のため、プログラムに参加している。
規則正しい生活のためなのか、朝は早い。
「すみません! 遅れました!」
最初は町のゴミ拾いから始まる。
町のゴミを、ただひたすら、拾うだけだ、社会貢献の一環らしい。
その後は、施設に入り、カウンセリングを受ける。
薄暗い面談室。机の上には記録用のノートと、ぬるくなった紙コップの水。
壁掛け時計の秒針がやけに大きな音を立てていた。
ここの雰囲気は苦手だ
全ての神経が繊細になる
「……つまり、怒っているわけじゃないんですね」
カウンセラーは低く、抑揚の少ない声で問いかける。
「はい。カッとなるというより……一瞬、体が勝手に動く感じです」
自分でもうまく説明できない感覚だった。
「その時、何を考えているか覚えていますか?」
「……分かりません。ただ、やってはいけないことだという認識がなくなるんです。
なぜダメなのか分からなくなる。気がつくと……やっていて」
短い沈黙。壁の時計が二度、三度と時を刻む。
「終わったあと、どんな気持ちになりますか?」
「少し……スッとします。そのあとで後悔が押し寄せます」
カウンセラーはメモを取りながら、わずかに眉を寄せた。
「その“スッとする”感覚は、怒りが収まった安堵ですか?
それとも……満足感に近いですか?」
「……満足感です」
「なるほど」
ボールペンの先が紙を擦る音だけが響く。
「衝動が強まるのは、どんな時でしょう」
「ふとした時です。人が近くにいなくても。
でも……傷や暴力に関するものを見た時は、多い気がします。バカにされた時も、出ることはあります」
カウンセラーは頷き、少し身を乗り出す。
「衝動をゼロにするのは難しい。
でも、“やり過ごす”ことはできるんです。
衝動はグラフのように一気に上がり、時間が経てば下がる。
上がりきる前に別の行動でそらすことが第一歩です」
「……別の行動?」
「ええ。例えば、物を握りつぶす。走る。
人には手を出さず、別の形で“満足感”を作る。
それを繰り返せば、波は次第に小さくなります」
俺は黙り込む。
目を閉じても、あの瞬間の“軽くなる感覚”が蘇る。
それが消える未来は、まだ想像できなかった。
その日の更生プログラムは終わり
家に帰る
「はぁ、やっぱりあの部屋は
少し、苦手だな…」
なんて独り言を呟きながら歩いていたら
「誰かっ!助けて!」
少し遠くで声が聞こえた
俺は声の方向に歩く
声の方向には女性と男性がいた
男性が襲いかかってるらしい
俺は急いで駆け寄った
「大丈夫ですか!」
「あぁ?なんだこいつ
おめぇには関係ねぇだろ
すっこんでろ!」
「助けてください!」
「黙れ!喋んな!」
その瞬間、男がナイフを持っているのが見えた、女性に斬りかかろうとしている、これは、まずい
俺は、がむしゃらに、体当たりし
運良くナイフが落ちてくれた
すぐに
男に拾われないようにナイフを拾い上げた
「くそが…!」
男は走って逃げていった
「助かった…」
俺は肩の荷が降りたかのように、ホッとした。
「ありがとうございます、もう少しで危ないところでした…」
俺は女性の顔を見た、
俺の体当たりは、少し間に合わなかったらしい、女性の顔には、切り傷があって、血が滴っていた。
俺はそれを見てしまった…
あの日決別したはずの。
決意したはずの。
俺が殺したはずの。
あの感情が浮かび上がる。
耳元で誰かが唆している様に感じる
なんで、俺は、ナイフなんて持ってしまったのだろうか、
女性の悲鳴が辺りに響き
その数分後にパトカーのサイレンの音が聞こえた。
俺が殺めた被害者の霊なのか
それとも俺の心なのか
亡霊が何なのかは俺にも分からない
1つだけ分かること、それは—
俺は未だに【あの日の亡霊】に蝕まれている。
僕は殺人を犯したあの日から、あの日の亡霊に蝕まれています。 でくのぼう @DekunoBou-
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