第2話 王女は王子様になりたい。
レベッカ・ミストルティン。
鐘のなるアクロガルトの世界で悪役令嬢を務める彼女は、金髪縦ロールの長い髪の美しい女性だが、シリーズを重ねるごとに増していく鬼畜っぷりにユーザーからは鬼クロワッサンと言う別称で呼び親しまれている。
しかし、彼女の記憶が流れ込み、なぜ彼女がそう言った行動を取っていたのかを理解した今、芹沢拓斗は彼女に同情し薄ら笑いを浮かべていた。
≪あら? それってどういう気持ち? 怒ってるのかしら?≫
「怒ってないよ、君の境遇には同情するけどね」
≪そうですの? なら、その笑みはなんですの?≫
「同じ体でも僕の思考を読んだりは出来ないんだ。 フフ、それじゃあ楽しみにしててよ。 僕にとってはこれはゲームだし、楽しもうと思ってね」
≪それは楽しみですわね。 それではしばらくの間、見守らせてもらいますわ≫
「うん、それでいい。 僕は芹沢拓斗。 タクトでもいいし好きに呼んでよ」
≪分かりましたわ。 それではタクトと呼ばせて貰います。 改めて、私はレベッカ・ミストルティン。 ミストルティン王家唯一の王女ですわ≫
「ご丁寧にありがとう。 それじゃあレベッカって呼ばせて貰うね。 今の状況は盗賊に誘拐されて監禁されている所だね。 黒幕は第三王子ガリウス王子派閥である貴族の仕業で、この後、その第三王子自らレベッカを救助してくれる」
≪その通りですわ。 ロクデナシの貴族が起こした勝手な行動で、ガリウスお兄様はその悪事を第二王子フランツお兄様派閥の貴族に暴かれて王位継承権を剥奪されてしまいますの≫
「うん、ゲームでは分からなかったけど、王子なのにガリウスが他の貴族達からも冷遇されていたのはこの事件のせいだったんだね」
≪ええ、その通り。 お兄様達のわだかまりもセシリア・ライトニングによって解決する未来がありますわよ≫
「うん、何度もエンディングを見たからわかるよ……。 君の力であのゲームを作ったのに何故セシリアが主人公なのかもね」
≪ええ、そこまで理解してくれているなら助かりますわ。 まあ、でも、私の物語はレジスタンスに処刑された時点でトゥルーエンドでしたのよ≫
「うん、それも分かってる。 今はレベッカの意図しないループに陥っているんだよね?」
≪ええ、誰かが私の魔法に干渉して制御出来なくなってますの≫
「その誰かに心当たりは……ないみたいだね」
≪一応、候補となる者はいますのよ。 私の死を望まない誰か、もしくはその後の物語を受け入れらなかった誰か≫
「その後の物語……。 エンディング後に聞こえていた不穏な音。 あれはレベッカが本来阻止したかった魔物の襲来だよね?」
≪ええ、まさに地獄絵図。 あれを回避する事は出来ないと悟った私は徹底的に国を腐敗させ、国を戦えるレジスタンスの国に仕立て上げるしか手立てはなかったんですの≫
「戦争も起こらない平和な世界だったもんね。 まさか平和な世界そのものが魔物達を束ねる魔王の世界を支配する為の布石だったなんて誰も思わないよ。 結局、レジスタンスとなった国民でも魔物達と戦った末、人間は滅ぼされてしまったわけか」
≪処刑された私にはそこまではわかりませんが、覚醒したセシリア・ライトニングは私を遥かに超える魔力を持っていますのよ? 簡単にはやられなかったはずですわよ≫
「そうかな? 性格が戦い向きじゃないしレベッカが指揮を取っていた方がマシな戦いにはなったと思うけど」
≪知っての通り、その未来も体験してますのよ。 結果は惨敗でしたけど≫
「そっちのルートだと国民が平和ボケしてて成す統べなかったみたいだね」
≪その通り。 それらが分かったうえで、タクトがどんな未来を届けてくれるのか、楽しみにしてますわよ!≫
「うん、期待してて。 一応聞いておくけど、もし僕が失敗したらどうなるのかな?」
≪そこでタクトの人生はおしまいですわ。 そして、ここから私の新たなループが始まる≫
「つまり僕にとっては試行錯誤の許されないゲームか。 気が抜けないね。 でも面白そうだ! 必ずこのゲームをクリアしてみせる!」
≪ウフフ、その意気ですわ!≫
こうして芹沢拓斗のレベッカ・ミストルティンとしての新たな人生が始まった。
そして、レベッカの記憶の通りに事が進み、第三王子ガリウスに助け出されたレベッカは城へ無事生還し、事なきを得る。
その後、すぐに駆け付けた第二王子フランツと共に、第三王子ガリウス派閥の貴族による悪事は暴かれ、第三王子ガリウスは何も知らないまま自室で三ヵ月間謹慎処分を受ける事になった。
メイドのリコ・リスポールに連れられ、レベッカは場内にある自室へと送られた。
部屋に入るとレベッカは、目に移った大きな鏡の前に立つ。
≪ウフフ、私の体に転生して来た人はここに来ると皆同じ行動を取るわ≫
メイドのリコがいるのでタクトは声には出さず、頭で思い描いた言葉をレベッカに向ける。
≪そうだろうね、誰でも自分の姿が変われば気になって見たくなってしまう≫
≪あら? テレパシーを使えますのね、驚きましたわ≫
≪レベッカが使ってるんだし、僕にも出来ると思ってね≫
≪ゲームが始まった時の7年前の私ですわよ≫
≪7年前って事は5歳のレベッカだね、この頃だとまだ立派な縦ロールはないんだ≫
≪ええ、元々癖一つ無い真っ直ぐな髪ですわよ。 髪を伸ばし始めたのはもう少し経ってからですわね≫
≪へぇ、それにしても5歳のレベッカは小っちゃくて可愛いね≫
≪当然ですわ! オーホッホッホ≫
「レベッカ様」
思念の中でレベッカが高笑いしていると、唐突に隣にいたメイドのリコが声を掛けてくる。
レベッカは傍観する様子なので、ここで初めてレベッカとして返事をするタクトは少し緊張しながらも返事をしてみせた。
「何かしら?」
「ご機嫌は如何ですか?」
妙な事を聞く。
タクトはレベッカの姿になり、鏡の前でポーズを取ってどうみてもご機嫌な様子を見せている。
しかし、リコの不安そうな表情を見て、レベッカは誘拐されていたので心配してくれているのだと思い、タクトは安心する様な言葉を思い浮かべた。
「安心して、私は無事ですわよ」
「はい、ご無事な様で、何よりです」
リコの丸眼鏡の奥にある瞳がキラリと光った。
それを見たタクトは指でリコの涙を拭うと、また新しい涙が流れ出て来る。
指だけでは拭いきれないので、ハンカチを使って涙を拭い続けた。
リコ・リスポール。
レベッカと同い年の専属メイドで、父親の爵位は伯爵。
かなり良い所のお嬢様だが、三女であまり家では良い扱いは受けていない。
とても目が悪く、ぶ厚い丸眼鏡をしているせいで姉と比べて地味な印象を持つ灰髪の少女だが、眼鏡を取ると美少女である事はあまり知られていない。
「そんなに心配しなくても大丈夫ですわよ。 それはさておき、ヴァンは居るかしら?」
「セルヴァンス様ですか?」
セルヴァンス・ドミニク。
彼女もレベッカの専属メイドだが、他のメイドと違って彼女自身が伯爵の爵位を持っている。
教育係でもある彼女の容姿は艶やかな黒髪をした麗人で、背も高く、男性だけでなく女性からも慕われている。
レベッカが誘拐されてしまった責任で、現在は謹慎処分を受けている。
「ええ、ヴァンが私の側にいないと言う事は、誘拐されてしまった責任を押し付けられていると言う事かしら?」
「はい、セルヴァンス様は今、謹慎処分を受けているので、お呼びする事はできません」
「まあいいわ」
レベッカがそう言ってか髪の前にある椅子に座ると、すぐ側まで来るようにリコへ伝える。
「はい、御髪を整えるのですね」
「ええ、バッサリいって頂戴!」
「はい、バッサリと……ええ? 髪を切られるんですか?」
「そう、バッサリいって頂戴!」
「バッサリって……。 それじゃあ、良い感じの長さで揃える感じで整えますね」
「いいえ、バッサリよ! お兄様達よりも短いくらいがいいわね」
「駄目ですよ、そんな事したら私が王様に怒られてしまいます」
「それもそうね。 それじゃあ、お父様に会いに行くわ」
「レベッカ様? どうしたんですか急に?」
「フフーン。 これから私は、いいえ。 僕は第四王子として生きる」
「レ、レベッカ様?」
レベッカの突拍子の無い発言にリコは慌てふためき、自分には手に負えないと判断したリコは、レベッカを連れて王の居る私室へとレベッカを連れて行くのであった。
悪役令嬢に転生したので物語をぶち壊してみた! ジャガドン @romio-hamanasu
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