悪役令嬢に転生したので物語をぶち壊してみた!
ジャガドン
第1話 伝説の乙女ゲー。
日雇いバイトをしながら、その日暮らしで生活している芹沢拓斗。
彼は幼少期の頃から手先が器用で、折り紙や裁縫なども少し触ればすぐに慣れて人並み以上に熟す事が出来た。
物覚えが早く、勉強もクラスでは一番ではないものの、全ての学科で優秀な成績を残し、運動でも同じような結果を得られた。
ルックスも悪くなかったので、それなりに女子からはモテていたのだが、彼自身が恋愛に興味がなく、三十路に至る今日まで彼女を作る事すらなかった。
人付き合いも苦手では無い芹沢拓斗だが、大成する事は無く、日雇いバイトでその日暮らしの生活を送っている。
「ご苦労さん! これ、今日のお賃金ね」
「ありがとうございます」
「君、仕事覚えるの早いね、良かったらまた来てよ。 優秀だし正規雇用とか考えてるんだったら、うちもやぶさかではないからさ」
「本当ですか? ありがとうございます」
芹沢拓斗はニコニコと笑みを見せ、給料を受け取り帰路に着く。
中古で購入した安いスクーターに乗り、いつも食事の為に訪れる商店街へとやって来た。
「8000千円か……。 家賃と光熱費の分は確保してあるし、明日は働かなくてもいいな」
そんな事を呟き、芹沢拓斗はよく行く中華飯店を訪れる。
「今日は天津飯と海鮮五目炒めの気分だったのに……」
中華飯店が閉まっていて肩を落とした彼は踵を返し、来た道を引き返す。
キョロキョロと商店街の店を覗きながら歩いていると、ある物に目を引かれて立ち止まる。
「鐘のなるアクロガルト6……? 新作って書いてあるけどおかしいな? 確か6は二年前に発売してたと思うけどジャケットも違うし……。 もしかして?」
芹沢拓斗はこのシリーズを全て攻略している。
最初は小学生の頃、なんとなく家にあったゲーム機で遊んだのだが、意外に面白かったので、シリーズの新作が出る度に購入してやり込んでいる。
その中でも4の出来が良く、新たなストーリーが革新的だったのだが、その後新しく販売されていた4は従来の物とほぼ同じストーリーだったので、最初に出た4は偽物だと言う噂が流れていた。
今回の6も出来が良かったので、制作会社不明な事を利用した偽者だと言う噂が既に流れていた事を芹沢拓斗は思い出す。
「もしかしてこっちが本物かなぁ? まあ、新作なら買う以外の選択肢はないけどね」
芹沢拓斗は鐘のなるアクロガルト6を2500円で購入した後、コンビニで弁当を買って帰宅する。
早速レンジで温めた弁当を食べながら、ゲームを起動する。
「ああ、コレコレ! 前にやった6だとBGMが変わってたからおかしいなって思ってたけど、やっぱりシリーズお馴染みのこのBGMじゃないと鐘のなるアクロガルトじゃないよね」
本物だと確信した芹沢拓斗は弁当を食べながら物語を進める。
本物とされる鐘のなるアクロガルトは、全てのシリーズでほぼ同じストーリが繰り広げられる。
主人公のヒロインが悪役令嬢に虐められながらも、男性キャラと恋をしたりして色々なエンディングを迎える事の出来る乙女ゲーと言われる物語である。
ハーレムエンドでは必ずレジスタンスとなって悪役令嬢を打ち破り、国を乗っ取ってハッピーエンドになるのがお約束の物語だ。
ただ、時折意味の分からない隠しエンディングを迎える事もあるのだが、どういった意図があるのかは不明。
シリーズを追うごとに鬼畜度が増していく悪役令嬢のレベッカ・ミストルティンが急に優しくなったりとまるで別人の様になったり、酷い下ネタで迷走したあげく打ち切りエンドみたいになったりと訳の分からないエンディングが存在していた。
今回もそう言った隠しエンディングまで見つけてやろうと意気揚々とストーリーを進める芹沢拓斗。
一晩掛けてようやく一週目のエンディングへと到達する。
「ふぅ、いつも通り変わり映えのしない鐘のなるアクロガルトだったな。 いきなりベストエンディングのハーレムエンド! 幸先良いぞ! ようし、少し休憩して二週目も別ルートでクリアするか……ん?」
画面に映るENDの文字。
いつもならそこからタイトルに戻って二週目を始める事が出来るのだが、今回は画面がそのままで、微かに何か音が聞こえる。
レジスタンスとしてレベッカ・ミストルティンを打ち破ったばかりなのに何かと争っている様な声や悲鳴がゲームの中から聞こえてきた。
「なんだこれ? くぐもっていてはっきり聞き取れないな」
芹沢拓斗はスピーカーに耳を当て、聞き逃さない様に耳をすませると、スピーカーの中から誰かの声が聞こえて来る。
「……しわけ…………せんレベッカさ……」
辛うじてそう聞き取れたのだが、語り部が誰なのかは分からない。
そして、しばらく気持ちの悪い悲鳴などが聞こえた後、急に静かになり、スピーカーの中から誰かが語り掛けて来る声が聞こえる。
「そこに、誰かいますね? お願いします助けて下さい」
その声が聞こえると、画面に選択肢が現れる。
選択肢は二つで、助けに行くかどうかの二択だった。
「YESかNOとかじゃなくて、助けに行くかどうか? 急にゲーム性とか変わって来そうだし楽しみだ!」
芹沢拓斗は迷わず“助けに行く”を選択する!
「ん? 選択肢を選んでもENDの文字は出たままだし何も……。 なんだか急に……眩暈が……」
芹沢拓斗は急な眩暈に襲われ、そのまま床に転がり目を閉じる。
耳からはくぐもったオープニングのBGMと特徴的な鐘の音が聞こえていた。
眩暈からくるグルグルと宙に浮くような感覚が落ち着いて来ると、芹沢拓斗は目を覚ます時の様に重い瞼を持ち上げた。
薄暗い石畳の部屋で目を覚ました彼は、椅子に座りなぜかロープで縛られている事に気が付く。
「どこだここ? ナニ!?」
芹沢拓斗は自分の口から出た声に驚く。
なぜならその声はとても可愛らしい少女のような声で、自分で出した声とは思えず気持ち悪いと思ったからだ。
よく見てみると、しばられた体はドレスの様な服を着ているし妙に椅子が大きく感じられる。
「おかしい、何かがおかしい……。 僕は……そうだ、鐘のなるアクロガルト6をやっていて……。 嘘? 助けに行くってそう言う……?」
事態を理解出来た芹沢拓斗はこれが夢であると疑い、少し強めに唇を噛んでみた。
「痛たたた!」
唇を噛むと現実的な痛みに襲われる。
これが夢ではないのだと彼は確信した。
そして、自分にあるはずのない記憶が流れ込んで来る。
戸惑いながらも、彼はそれを受け止める事しか出来ず、全てを理解した彼は語り掛ける。
「答えてくれレベッカ・ミストルティン。 そこにいるんでしょ?」
芹沢拓斗の問い掛けに、頭の奥底から不思議な声が鳴り響いた。
≪ええ、ここにいますわ。 あなたの中にと言うより、私の中にあなたがいるんですけどね≫
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