第2話 三度目はある意味事件の当事者に

 二度目は五年前。秋葉原の通り魔事件。女の子を庇った瞬間、頬を刃物で掠められた。

 そして目が覚めると、頬には同じ傷があった。

 最初と同じく夢で負った傷が現実のものとなっていた。

 これは、ただ事じゃない!

 ベッドの脇のテーブルに置かれた秋葉原事件の書籍を手に取って、そして最初の夢の事を思い出す。

 

「まさか…これが原因?」

 最初の夢を見た時も、東京大空襲の書籍を読んでいた事を思い出す。

 史実に基づく書籍が関係しているのでは?と漠然と思うがそれにしてもと疑問も残る。


 俺は本が好きなので、ジャンルを問わず常に何かしらの本を読んでいる。

 史実に基づく歴史ものも多数読んでいるが、必ず夢を見るわけではない。

 ただ、歴史もの以外で夢を見る事はない。いや、覚えていないだけかもしれないが…

 他に何かしら、トリガーがあるのだろうか?


 史実に基づく書籍を読むのをやめようかとも思ったが、やめると何かに負けてしまう気がしてその後も気にせず読んでいる。


 そして今、三度目だ。


 今の俺は山田藤吉。海援隊の長岡謙吉さんに気に入られ、彼の従僕となった元力士。

 長岡さんの命で龍馬さんの用心棒となり、数週間ほど前から近江屋の2階に住まわせてもらっている。


 1ヶ月ほど前、徳川慶喜が政権を朝廷に返上する大政奉還を行った。大政奉還は土佐藩の提案によるもので、その仕掛け人が龍馬さんだ。

 龍馬さんは日本人同士が争う事で、国内勢力が弱体化して国外勢力によって日本が牛耳られはしないかと懸念しており、どうやったら争わずに済むかと頭を悩ませていた。

 いろいろ考え抜いた挙句に出した答えがそれだった。


 うまくいったはいいけれど、武力倒幕を目論んだ者からすればまさに晴天の霹靂。怒りの矛先が龍馬さんに向くのも仕方のない事だった。

 隠れるのならば藩邸に!と言われたのだが龍馬さんがそれを良しとしなかった。隠れ場所を近江屋に選んだのは龍馬さんだ。

 土佐藩邸にもほど近く、土蔵を抜ければ誓願寺へ抜けられるの良いだろうと判断したからだそう。

 龍馬さんは昨日の朝から怠いと言っている。どうやら風邪をひいたらしい。こじらせてはまずいので2階でおとなしくしてもらっている。


 そういえば、今日は確か龍馬さんの誕生日…


 …ん?

 なんか引っかかる…


「あっ!!」

「「えっ!?」」

 思わず大きな声を出してしまい、近江屋の父娘を驚かせてしまった。


「すみません。あの、今日って11月15日ですよね?」

「!!?」


「…そうですね。」

「…」

 嘘だろ!?よりによって今日が…あの「近江屋事件」の日ってことかよ!!


 ちょっと待てィ!!

 えっ!何!?

 俺、ここで死ぬの!!?


「あの…大丈夫ですか?顔色が悪いようですが…」

 あんたもね!!


 何故か娘さんも顔を青くしている。いや父娘そろってだ!

 なんで?


 いや、今はそれどころじゃない!!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る