第11話 対面、イザベラ・エル・ユーシア

「初にお目にかかります。私は……」

 女性はその場に跪き、その銀色の瞳をエレナに向けて名乗る。

「イザベラ・エル・ユーシアと申します」

「エ……エレナ・ユーシアです……」

 エレナと違って、くすんでいない艶やかで、綺麗で、腰まで伸びた金髪。女性にしては172cmと身長が高い。透き通るような白い肌に、長いまつげ。人々が見とれてしまうほどの整った顔立ち。エレナのみに着けている女王のドレスに似通ったドレスを着ている。

 彼女の一挙手一投足が、高貴さを放っており、その美しさに思わずエレナも見とれてしまう。

「本来であれば当家の者全員で出迎えねばならないところを、私のみの無礼、どうかお許しください」

「い、いやいや、全然大丈夫ですよ!むしろわざわざ出迎えてくれてありがとうございます」

「……」

 素直にエレナが頭を下げると、イザベラは、目を見開いて驚いた様子でエレナのことを見つめていた。

「あの、どうかしました?」

 エレナが訪ねると、イザベラは答える。

「いえ、陛下が私のような一貴族に頭を下げられたことに驚きまして……どのように返答したら良いのか分からず」

「あ、そういう……大丈夫ですよ、あまり気にしなくても。私なんて、元はただの村娘ですから!」

 エレナがニコリと笑う。

「いえ、それでも陛下に無礼を働くわけにはいきません。当家の品位も関わって参りますので」

「そ、そうですよね……」

 苦笑いをするエレナ。

「それでは、ここからは私が、皆様をお食事の場まで案内いたします」

 イザベラは「ありがとう」とスミスに一言告げ、履いている高いヒールをコツコツと鳴らしながら進んでいく。

 未だヒールで上手く歩けず、痛みに耐えながら歩いているエレナにとって、決して姿勢を崩さず上品に歩くイザベラの姿を見て、エレナは思う。

「(私なんかより、よっぽど女王様みたい)」

 ほんの少し、エレナは落ち込んだ。

 食事の場に行くまで、イザベラは一言も喋ることはなく、ただ淡々と歩いた。その時間が、エレナの心を更に不安にさせる。

 邸宅内は、赤と金を基調とした木造の建物だった。所々に美しい絵画や、宝石。柄が金で出来たレイピアなど、様々な高価なものが置かれていた。

だが、エレナにはそれらに関心を寄せる心の余裕もない。

「どうぞ、皆様こちらの席にお座りください」

 長い廊下を抜けた先には、黄金のシャンデリアが数十も天井に吊された、とてつもなく広い食堂だった。部屋の中心には、広い食堂の端から端まで届く程の巨大なテーブル。勿論豪華な装飾がついた豪華な仕様。そしてその上には、エレナが城に来てから食べた事も無いような、様々なごちそうが、机の端から端までずらーっと並べられていた。

「こんなに沢山……食べれるのかな」

 小さな声で呟きながら、エレナ達は、多様な宝石がちりばめられた豪華な椅子に座った。

 エレナとドレッド、マーク。それに護衛の数十人の兵士。これだけいても、食べきることが出来るかどうか。エレナ達一行が皆同じ不安を持つと、それを見透かしたようにイザベラが言った。

「無理に食べきる必要はありませんが、できるだけ多く、皆様が食べることが出来るようご用意しました。取引の話は、食事の後にいたしましょう……食事の前に交渉が決裂しては、折角の料理が味気なくなってしまいます」

 イザベラのその一言から、その場にいたエレナ一行は感じ取った。イザベラは、自分たちの交渉を成立させるつもりが、今のところないと言うこと。そして、この豪華な料理は、王との交渉が決裂しても、王宮との関係を穏便にするための詫びの意味も込められている。そうなってしまえば、表面上の王宮とイザベラの信頼関係を壊すようなことが出来なくなる。イザベラの影に流れる黒い噂。密偵などを送り込んでもしバレでもすれば、たちまち内乱。

「うむむ……この料理、食しても良いものか」

 イザベラの噂に対して一番危機感を持っていたのは、ドレッドだった。彼は唯一、帝国時代から国に仕える軍人だ。イザベラがどういう人間か、エレナやマークよりはよほど理解している。だからこそ、もしも交渉が決裂したときは、それを理由に密偵を送り込むか、王宮を愚弄したとして表沙汰にし、イザベラが影で行っている事を白昼堂々と調べ、無理矢理交渉を成立させる等して、早めにイザベラの問題を解決しようと考えていた。

「おいしい!マーク!この料理すごいおいしいよ!こんなの王宮でも食べた事無い!ひぇー、おいしすぎる!」

「え……」

 ドレッドが、そんな幸せそうな悲鳴が聞こえた方に目をやると、そこには唇にトマトケチャップを付けながら、それはそれは美味そうに目の前にあるものを食していく女王様の姿だった。

「な、エレナ様毒味が!」

「大丈夫大丈夫!ほら、全然平気でしょ!毒味は私がしといたから、皆も食べなよ」

 マークその姿に呆れながら、仕方ないと料理を食し始める。そして、その姿を見た他の兵士達も、次々と料理を食べ始めた。

「(いや、毒味を貴方がするのは本末転倒なんですが?何をやっているんだマーク!)」

 顎を外しながら、ドレッドも致し方なく目の前の肉を頬張った。

 魔力の乱れによって作物の育ちも悪く、魔擦病で作り手もいないため、豪華な料理をたらふく食べることが少ない。一心不乱に目の前の料理にがっつくエレナは恐らく、緊張を紛らわそうとしていたのだろう。これから、国民の命をかけた取引を行うのだから。

「エレナ様、食事はその辺しておきましょう。我々は取引に来たのです。食べ過ぎると思考が鈍ってしまいます」

「……そう、だね」

 エレナはその手を止めると、目の前にあるケーキののった皿を取って言った。

「最後に、これだけ食べさせて……」

 無意識の上目遣いで、エレナがマークに頼む。だが、マークは一切表情を変えず、いや、むしろ厳しい表情で一言。

「国民よりケーキですか」

 エレナはすっとケーキをその場に置いた。

「私どものもてなしが、エレナ様に満足していただけたようで何よりです」

 エレナは、とろけそうな顔でほっぺに手を当てていった。

「いやーもう、本当に大満足です」

 満面の笑みで、エレナは言った。だが、その手は震えていた。恐らく、感じ取ったのだろう。イザベラが話を切り出そうとしていることを。

だが、食事を食べ始めてからずっと震えていたエレナの手を見て、マークも動揺にイザベラが話を切り出す前に警戒をしていた。

 この場で、初めから一度も気を抜いていなかったのは、エレナ只一人だけだった。

 「そろそろ良い時間です、交渉を始めましょう」

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