6.摘芯

第24話 摘芯①


 はあ、はあ、はぁ、は、

 ごぶりと、口から血が。

 息が、

 息ができない。

 

 山中の空気は、どうしてこんなにまで濃いのだろうか。

 冷たい水気と、それから新鮮な草木の溶けたようなのと、腐った樹が溶けたようなのと、全部が混ざって、ああ、息苦しい。

 はあ、はあ、と息せき切れる毎に、喉の奥から血が滲む。

 血の泡が、口の端に吹いている。茜襷を掴んで拭った。

 まだ取れない。

 ああだめだ、頭の中が、ぐずぐずと溶けてゆく。

 約束したのに。

 霜が終わるころに、迎えにいらっしてくださいと。

 ああ、兄様。

 竜円様。

 どうして、


 どうして私を裏切りなさったのか。


 いや、兄様が私を裏切るなんか、ない。そんなはずはない。

 きっとと約束した。

 心づもりと身支度をして待っておれと、そう言って抱きしめてくだすった。

 そうや。

 やから、あんなんは嘘や。

 嘘を吐いたんや。私を騙そうと。

 厭や、ほんまに厭や。

 なんて酷いことを。

 私は、兄様のものや。

 兄様以外の誰にも触れられとうない。

 厭、

 厭や、やめて。

 助けて、やめて厭や切らんといて!

 兄様!

 助けて兄様!




 お前、

 絶対に、

 死んでも赦さん。


 六道の何処に堕ちようとも、

 地獄の果てまで這いずり回ろうとも、

 必ず見つけて、見つけるたんびに、お前の臓腑を引きずり出してやる。

 それがどこの土であろうとも、

 お前の血と腐肉で埋めつくしてやる。

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