夢と不思議な大日記!!

うらら

第1話「今咲、花」

 四月。新学期の朝。

 小鳥遊ひかりは机に突っ伏して、半分寝ながら担任の話を聞き流していた。

「――というわけで、今日から新しいクラスメイトが加わります」

 その一言で教室がざわつく。ひかりも顔を上げた。


「慣咲ゆうです。よろしくお願いします」

 入ってきたのは、栗色の髪を緩く結んだ女の子。おっとりした笑顔を浮かべながら、ゆっくりと教卓の前に立つ。


「趣味は、空に名前をつけることと――」

 教室が一瞬静まった。

「あと、昨日見た夢の続きを書くことです」


「夢の……続き……?」

 誰かが小声でつぶやく。


「はいっ。たとえば、昨日の夢で私、空飛ぶおにぎりと戦ってたんですけど、その続きがどうしても気になって……」

 ゆうは真顔で言った。笑いを堪えるクラスメイト。ひかりは、机に突っ伏したまま心の中でつぶやく。

(……なんだこの子)


「席は小鳥遊の隣な」

 担任の言葉に、ゆうは嬉しそうにこちらへ歩いてくる。


「はじめまして。お隣さん、仲良くしてください」

「え、あ、うん……」

 笑顔で差し出された手に、ひかりは条件反射で握手する。

 その瞬間、ゆうが小声で言った。


「ひかりちゃんって名前、星みたいで素敵」

「……今初めて聞いたのに?」

「顔に書いてあるよ」

「え」


 完全に意味不明な会話を残し、ゆうはカバンをごそごそ。取り出したのは……双眼鏡。


「……何それ」

「空を見る用です。あと、教室観察用」

「後半のやつやめろ」


 ホームルーム後、休み時間になると、ゆうは早速行動開始。

 窓辺に立ち、空を見上げながら手帳に何か書き込む。


「……青のグラデーション、レベル4」

「何の採点だよ」ひかりが呆れる。


「これが私の物語の材料になるんです」

「物語?」

「はい! 現実の景色をちょっと魔法っぽく書き換えると、すぐ物語になるんです」


 ゆうはキラキラした目で言う。

(……あー……こういうタイプか)ひかりは頭を抱える。


 昼休み。ひかりが弁当を広げると、ゆうがそっと覗き込んできた。

「わぁ! 玉子焼きだ!」

「……珍しくもないでしょ」

「この形、私の夢に出てきた城の門にそっくりです」

「……何そのピンポイント」


 放課後。

 帰り支度をしていると、ゆうが突然、机を叩いて立ち上がった。

「明日、一緒に屋上に行きませんか!?」

「……なんで」

「物語の舞台にするんです!」


「いや……屋上って基本、入れないよ」

「じゃあ忍び込みましょう」

「犯罪予告やめろ」


 この日、ひかりは悟った。

 この子と一緒にいると、平穏な日常なんて望めない。

 だけど……ちょっとだけ、面白いかも――。

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