第11話 戸惑う時間にも

 シャロが読んでいた本が燃えた数時間後、シャーロットがディオロイ城の食堂で眠い目を擦り朝食を食べていた。広い食堂に一人食事をするシャーロットのフォークやナイフがお皿に触れる音が微かに聞こえる

「シャーロット様、体調はいかがですか?」

「まあまあね、少し眠いけれど」

 家政婦が甘く温かい紅茶を差し出しながらシャーロットに問いかけ、紅茶受け取りながら答えると、家政婦達の様子がいつもとは違い心配そうにこちらを見ているのに気づいて紅茶を飲もうとしていた手が止まった

「どうかしたの?」

「いえ、昨日の夕食をシャーロット様がとてもお食べになったので、お体は大丈夫かと……」

 と、紅茶を差し出した家政婦がそう言うと、食後のデザートを持ってきた家政婦達も皆、顔を見合わせ一度頷く。その様子を見てシャロが昨夜言っていた事を思い出し、一瞬表情を引きつらせる

「えっと、そうだったかしら?」

「ええ、一言も何も言わず、ずっと食べていたので、私達とても心配していたのですよ」

「だっ、大丈夫よ。それより、お母様とお父様には連絡は何かあったの?」

「いえまだ。お二人ともお忙しいのかと思われます」

「……そうね」

 家政婦の返事にデザートを食べながら頷く。少し紅茶に合わせて甘さを押さえたケーキを一気に食べて椅子から立ち上がる

「少し休むわ」

 そう言うと、食堂から立ち去るシャーロット。一人出ていくその後ろ姿に家政婦達が少し頭を下げて見送る。食堂の扉が閉まり一人きりなったシャーロットは自室に戻る途中、昨晩の事をまた思い出して

頬を膨らませる

「食べすぎってありえないわ、今度会えたら言わなきゃ……」

 そう呟きながら廊下に足音をたてながら歩くシャーロット。ふと自分の部屋の隣で扉らしきものがほんの少し開いているのに気づいて部屋の一歩前で立ち止まった

「扉?私の部屋の隣にこんな扉なんてあったかしら?」

 見知らぬ扉が気になったシャーロットはさっきとは違い、そーっとゆっくり恐る恐る歩く。自室の前を通り過ぎ、すぐに扉の側に着いた。

「誰もいないの?」

 廊下を見渡し、警備や家政婦達がいるか確認する。何度も顔を左右に動かし、人が来ないかしばらく待ってみるが、誰も来る気配はなく、仕方なく薄目で恐る恐る扉を開けた

「え?」

 扉を開けたこの先に見えたのは、見知らぬ部屋に燃える本棚や本の数々。段々と部屋に広がる火が熱く、一歩二歩と後退りするシャーロット。戸惑いながらも誰か呼ぼうと燃え続ける部屋の前をウロウロと歩いていると、突然隣のシャーロットの部屋の扉がバンッと勢いよく開いた

「シャロの言う通り。でも間に合わなかった」

 シャーロットの部屋からリリーが現れ、戸惑うシャーロットの頭に止まる。一緒に燃える部屋を見て

、リリーがバサリと翼を広げた

「ご飯食べていたら間に合わなかったよ、残念だね」

「何を言って……」

「早く閉めて、一緒に燃えちゃうよ」

 リリーに言われて慌てて部屋の扉を閉める。炎で熱くなった部屋の扉をゆっくりと閉じる

「頑張って」

 シャーロットの周りをグルグルと飛び回りながら応援するリリーに少し苛つきながら扉を閉じた

「やっと閉まったわ」

 はぁ。とため息をついて、熱くなった両手の手のひらを見る。その間にリリーがぐるりと扉の周りを見渡した

「閉じるよ」

 そう言うと、扉を一瞬蹴るように触れると、部屋の扉は無くなり、いつもと変わらない壁に変わった

「あれ?なんで?」

 シャーロットが驚きながらペタペタと壁を触る。熱いはずの壁も冷たく、コンコンと壁を叩いても特に変わりなく、不思議そうに首をかしげていると、先にシャーロットの部屋に移動していたリリーがドアノブに止まり、シャーロットを見ていた

「ほら、一緒にシャロに謝るよ。早くほら急いで帰るよ」

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