第1話 俺には夢があった

 俺には夢があった。昔から願っていた、たった一つの夢。それは、高校で女友達を作る事だ。

 まずは男友達からかもしれないが、これが俺の夢だったのだ。

 なぜここまで友達作りに固執しているのかと言うと、俺は中学生の時に孤独感を一生分味わったからだ。思春期真っ只中。みんなが各々楽しそうにしている中、一人で学校生活を過ごすのは中々にキツイものがあった。

 しかも、在学中女子と喋ったのは2回だけだ。

 一回目は班活動の時に班のリーダーの女子に『ミノル君は意見とかありますか?』と聞かれたとき。そして隣の席に座った女の子に『ゴメン!!シャーペン貸してくれない?サンキュー!!』と言われたことのみ。そう、ホント

に二回だけ。誇張とかでは無い。ガチだ。なんなら俺から話したのはゼロだと言える。


 三時間目。謎のアンケートを書かされている時間であり、かなりめんどくさかった。こんなのに全力になれない俺は時短するため全ての《多分そう思う》の所に丸をつける作業をしていた。こんなの誰が集計してるんだと思いつつ、俺は真面目にやっていたのだが、その時。俺の机下にボールペンが転がって来た。

 誰が落としたのだろうとペンを拾い、背後を振り向いた。俺の後ろの席には自己紹介の時はわりかし普通目な少女、薟麻耶 言葉がいた。

 紫の髪で前髪が片目を隠していたが、結構な美少女だ。まあ、相変わらずヘッドホンをしているのが気にはなるのだが、それを除けば特に変わった子でもないだろう。俺はこのペンを届ける為に割と勇気をふり絞る。

「あの、これ落ちたよ....」

 俺が話しかけると薟麻耶は顔を赤らめ、即座に謝罪する。

「す、すみません。いつのまにか落としちゃってたみたいで。あ、ありがとうございます」

 俺はボールペンをその子の掌に乗せた。

「ほんとに、ほんとに、ありがとございます」

 改めて感謝するので、少し俺は照れてしまった。

 あと、やたら俺の目を見ていたがなんだったんだろう。中々恥ずかしかったのだが。


 昼休み。俺はさっきの少女とお弁当一緒にどうですかチャンスを一人待ち望んでいたのだが結局、その子に誘われる事も無く早々に昼食を食べ終え、特にすることも無い俺はただ一人で暇を持て余していた。

 あの子は学食なのか分からないが速攻で昼休み教室から出て行ってしまった。

 暇だな。ああ、一人でボーッとして何やってるんだろな俺。恐ろしいことに、あれだけ夢を語った筈なのに、友達を作るどころか自分から話しかけることを放棄しかけているのだ。つまりは初手で躓いたのだ。ほんと、自分のヘタレさに嫌気がさすよ。

 まあ、でも結局こんなものかと、そう立ちあがろうとした時、背後から声がした。

「ねぇねぇ。ミノル君!!」

「君は.....」


 どうやら俺に声をかけてくれた物好きは奥遍芽琉であった。薄ピンク色のロングヘアで優しい眼差し。スタイルも良くクラスの男子達が放って置かないルックスを持っている。

 自己紹介の時のメルヘン少女である。

「えっと。ミノルくんで名前あってたかな?」

 彼女は続けてそう言う。俺はかなり緊張していた。

「ああ、あってるよ」

「良かった。私、人の名前覚えるの苦手でさー。間違ってたらどうしよって思ってた。」

 彼女はパァッと笑い、手を伸ばす。

「そう....」

 一方の俺はと言うと、まるで返す言葉が出て来ない。コミュニケーションを怠ってきた事による予想外の出来事だ。

「なんなら担任の先生の名前も忘れちゃったよー」

 担任の先生が泣くぞ。担任の自己紹介の件は敢えて省いたが、結構なインパクトがあったと思う。俺は忘れてなかった。

「あはは。そういえばさ、ミノルくんは友達できたー?」

 いきなりその質問か.....。

「いや、まだ。ってか、そもそも人に話しかけれてすら。」

「ふーん」

 奥遍さんは友達が多そうだ。ただの予想だけど。

「もしかして奥編さんは友達できたの?」

「ううん。私も出来てないんだよー。おかしいよねー。友達ってどうやって作ってたんだろう?なんか勝手にできるイメージだったから困惑してるよー」

 自信満々に言う奥編さん。意外だな。明るそうだからすぐにでも馴染めそうなものなのに。

「ふーん、そっか。」

「.....」

 奥編さんは唐突に冷静に俺の顔を見つめる。

「ミノルくんと私。友達がいない同士、似てるね」

「まあ、一応そういう事になるのかな」

「ふーん。じゃあさ、友達になろうよ」

 その一言で俺の空間と思考とその他諸々が停止した。

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