第7話 死の狩人ザヴァーク

夜の草原は、まるで闇が呼吸しているかのようだった。 王都の外れ、広がる黒い野。その只中に、ユリオン、カイラス、リサ、エルゼの四人は肩を並べて立っている。 重苦しい空気。彼らの影が地面に滲み、夜風に揺らめいた。

「来るぞ……」

誰でもない囁きのようなエルゼの声と同時に、温度が何度も下がったような錯覚に包まれる。

「どこから……」リサが細剣を握りしめ、鋭い視線で闇を見張った。

突然、その中心。地面の影が異様に濃く沸き上がり、不気味な呻きが草原に響く。 影の中から、甲殻に覆われた異形の巨体がゆっくり這い出してくる――

ザヴァーク。

骸骨が歪んだような仮面、眼窩は深く暗く、身体の隅々まで黒い影が滴るようにまとわりついていた。

「死者狩人ザヴァーク……」

カイラスが豪剣を握り直す。

「噂通りの化け物だ」

ザヴァークは静かに息を吐き、四人の周囲に影を広げる。その影は生き物のように脈打ち、ざわざわと音を立てて伸び、他者の影と混じり合った。

突如――ユリオンの右斜め後ろ、

草の影から分身体が跳ね起きた

カァン!

瞬時の斬撃。リサが細剣一閃で分身体の腕を弾き飛ばす。

「想像以上……!」

ザヴァーク本体は、地面に広がる影から腕を生やす。“影”そのものが武器、“影”だけが道となる。

気を抜けば足元の影からいつでも本体が襲いかかれるのだ。

「動きを読めばいいだけだ!」

カイラスが豪快に前へ出た。

しかし豪剣が影の腕ごと本体に

       叩きつけられる――

打ち下ろした瞬間、ザヴァークの身体は影へと分解し、地面の別の影から再構成される。

本体と分身体、全ての影に意識が

繋がっている。

「影移動……!」リサが即座に気配を探る。

「しつこい……!」

カイラスの怒号と共に、リサがサイドからもう一撃。それでもザヴァークは影に潜んでは別の場所から現れる。

ザヴァークの分身体たちは、四人を囲むように位置取る。

全ての影が生き物のように波打ち、時に地面に人の手の悪夢のような幻影を映し、突き出てくる。

エルゼの両手に魔法陣が宿る。水流が空気を滑って地面を濡らすと、

影が薄れ消えてゆく。

「水は闇を薄くする! みんな、僕の作った

“明るい場所”から動かないで!」

一帯を水の魔法陣が巡る。地面の一部の影を薄め、ザヴァークの“出口”を限定できる。

だが、それでもザヴァークは巧妙に残された影と影の隙間を狙い、四人に攻撃の手を伸ばしてくる。

突然、リサの背後の細い木の影からザヴァーク本体が這い出し、仮面の口を大きく開き叫んだ。

「危ない!!」

ユリオンが叫び、リサが咄嗟に回避。だが、ザヴァークの影の鉤爪が僅かにリサの脚を

傷つけた。

「こんなに速い……!」

「本物の“死”を纏ってやがる……」

カイラスが防御の構えを強める。

エルゼは瞬時に水の防壁を造る。リサの影を切り取り、その部分だけ光を与えて分身を

消す術をくれる。 「みんな、大丈夫!?

今のうちに態勢を!」

応じるように、ユリオン、リサ、カイラスは四方を囲むような陣形を取る。

水と剣。だが影は、次第に濃く、重く、嫌な圧力で場を満たしていく。

ザヴァーク本体がじっとユリオンを見据える。足元の影が這い回り、複数の分身体を

生み出し包囲する。

「……!」

「くっ……全方向かよ!」カイラスが声を

あげる。

分身は本体同様に蠢く影をまとい、周囲を

一歩ずつ影で狭めてくる。

リサが「逃げ道が……ない!」と切歯する横、エルゼは咄嗟に地面へ水を流し影を薄めた。

だが、ザヴァークの闇はさらに濃く、地面の影がざわざわと蠢き始める。

――影が膨らみ、真っ黒な手が無数に地中から這い出してくる!

「嘘……!?」リサが足元に顔を歪めた。

影の手が冷たく、まとわりつくように足首をガシッと掴む。咄嗟に細剣を振るうが、その間に別の手がエルゼの足を捕まえた。

「――!」

彼がバランスを崩し、倒れ込む。

その瞬間、伸びた影の指がエルゼの膝を腕を鋭く引っ掻いた――傷口から鮮血が滲む。

「エルゼっ!」ユリオンが即座に手を伸ばすも、今度は自分の足元にも影の手が這い寄ってくる。

カイラスとリサが間に入ろうとするが、それぞれの影分身が双方向から牽制し、隙を与えない。

「水で……っ!」

エルゼは必死に三つの魔法陣を出し、

水魔法を発動させ、足場の影を一瞬でも薄く塗り潰す。

その隙、カイラスが咆哮して豪剣で近くの

影の手を切り潰す

リサも回転斬りで足元の手を断ち切る。

完全な包囲と、どこまでも喰らいつく

“影の手”――

仲間は必死で助け合うが、エルゼの傷は痛々しく血を滲ませていた。

ユリオンは息を呑む――闇のプレッシャー、分身の動き、死んだ者の気配、そのすべてが体温を奪う。

(この影の海で、いつ地の底に引きずり

込まれるか――)

ザヴァークが影の中で形を変えながら

動き出す。

複数の分身体が一斉に四人へ分断攻撃!


ザヴァークの分身体と影の爪が波状のごとく迫り、カイラスすらも苦しむ。

ユリオンの剣が何度もぶつかり跳ね返される。そのたびに腕が痺れ、心臓の鼓動が倍々に早くなり――

目の前で仲間の汗、気迫が飛び散る。

(俺はこの中で、何ができる? こんな敵にどうやって…!)

膝が震える感覚、喉の奥まで刺さるような

緊張。それでも身体は自然に動く。

仲間も命を賭けてくれている。

そこで、ザヴァーク本体の鉤爪がユリオンを正面から捕らえる。

(くそっ――速い! やばい!)

直後、カイラスが割って入る

「まだ倒れんなよ!」と叫ぶ。

リサ「後ろは任せて!」

エルゼが水流で僅かに影を切り裂く。

――その瞬間、ユリオンの心に“熱”が

走った。

ユリオンの意識のどこかが、不意に研ぎ澄まされた。

耳鳴りが世界から消える。

不思議と自分の呼吸だけがスローモーションのように聞こえる。

ザヴァークの動き――影のうねり――分身体との“違和感”――草の揺れ方――すべてが

細かい粒としてはっきり認識できる。

(見える……!)

分身体の動き、本体の気配、影が濃く集まる“核”――それら全てが鮮明だ。 足も腕も、

先ほどまでの恐怖が嘘のように軽くなった。

動きが自然に――いや、何かに導かれるように俊敏に。

心臓が静かに高鳴る、血流が熱く、全力で

理由もなく自信が湧いた。

「……行くぞ!」

ユリオンが声を発し、仲間が同時に動く。

水の魔法が戦場の影を薄れさせ――

リサが分身体の攻撃を紙一重でいなし、

一太刀入れる。 カイラスが本体の鉤爪を全力で弾き飛ばす。

そして――

ユリオンは影の濃い一点、本体のうずくまる仮面に“確信”を持って突撃した。

「今――!」

ザヴァークの本体が影を槍のごとく集め、

一撃でユリオンを串刺しにしようと構える。 貫く瞬間、寸前のところで避ける。

ユリオンには見えていた。

次の瞬間、ユリオンの剣がまるで光の糸のように唸る

「風断流 落風斬らくふうざん

仮面を切り裂く!

仮面が割れ、ザヴァークが断末魔と共に

影ごと後退。 最後の足掻きで地面全体に影の触手を広げ、四人まとめて引きずり込もうとする。

「任せて!!」

エルゼが両手を組み、水流を炸裂させる。

影がどんどん薄れ、残った暗闇を浄化

していく。

「ラスト!!」

三人が同時に突撃――

カイラスの大剣が胴体を砕き、

リサの細剣が心臓部を貫き、ユリオンは

全霊の一撃でザヴァークの心髄へ剣を

叩き込む!

「風断流 颶風乱舞

剣を振るうたびに真空の刃が

         生まれる高速乱舞技

  ザヴァークの体に斬撃が刻まれた

ザヴァークの影が四方八方に散り、夜風と共に霧散する。

呆然と立ち尽くす四人。静寂と、草の香りだけが残った。

「……よくやったな」カイラスが豪快に

笑う。

ユリオンは仲間の顔を見渡した………

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

   ここはどこか

        時間

    光も感じない

 あるのは一人?一体?謎の男のみ。

???「いいねぇ」 

 「君が強くなればなるほど、

    私が自由になる日も近ずいて来る」

  男は帽子を深く被り静かに笑った

   「期待してるよ」

     「ユリオン君」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ここまで読んでくれて

      ありがとうございました!!

ちなみにザヴァーグは、

    あの魔物の中だったら一番弱いです

 次回は他の宮廷魔術師の実力を描く予定

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