銃歌絆国
第1章 穏やかな朝
朝の光は、柔らかく障子を透かして差し込んでいた。
畳の上には、木漏れ日のように淡い影が模様を描き、部屋全体をほんのりと金色に染めている。
どこか懐かしい静けさの中に、湯気の立つ味噌汁の香り、焼き魚の芳ばしい匂いが混じり合い、家中に広がっていた。
「……はい、朝ごはん、もう全部できましたよ。今日は塩鮭と味噌汁、それに卵焼きと漬物。あと炊き立てのご飯です」
日本は静かに膳を並べながら、穏やかな声で告げた。
ドイツはきちんと正座し、真剣な眼差しで箸を持ち上げる。
「この配分……栄養のバランスが完璧だ。炭水化物、タンパク質、ビタミン、ミネラル……どれも抜かりがない。理想的な朝食だな。まさに模範的だ」
フランスは少し肩をすくめ、口の端を上げる。
「まぁ、認めるけどね。でもねぇ……やっぱりパンが恋しくなる。焼きたてのクロワッサンの層を一枚ずつ剥がしながら、香ばしいバターの香りを楽しむ、あの瞬間……朝はそれが一番だと思うんだよ。ワインがあれば、なおさら完璧」
七歌はパンをちぎる仕草を真似しながら、にやりと笑った。
「そんなこと言うなよ。こっちの飯もうまいだろ? 魚の皮がパリッと香ばしくて、噛むと脂がじゅわっと広がる。この味噌汁だって、だしが効いてて最高だぞ。ほら、一口飲んでみなって!」
絆川は優しく笑みを浮かべ、みんなを見渡した。
「こうして同じ食卓を囲めるのが一番だよな。どんな国の料理でも、こうして一緒に食べられるなら、それで十分だ」
十六夜は俯きながら、小さな声で絆川にだけ囁いた。
「……ありがとう。みんなの輪の中に入れてくれて……私、まだ慣れてなくて……ごめんなさい。絆川さんと七歌さんと話すのは、少しだけ安心できるんですけど、それ以外は……まだちょっと……」
絆川は微笑んでうなずき、柔らかい声で返した。
「無理しなくていいんだ。少しずつでいい。俺たちは急がないからな」
食卓には笑い声と、時折沈黙の間に漂う温もりが混じり合っていた。
何気ない朝食だったが、その時間は確かな絆を形作っていた。
第2章 不穏な依頼
食後の静けさを破るように、日本が一通の封筒を持ってきた。
古びた洋封筒には、重々しい封蝋が押されている。そこに刻まれた紋章を見た瞬間、全員の顔色が一変した。
「……これは……財団からのものです」
日本の声が低く響き渡り、部屋の空気が凍りついた。
七歌が眉をひそめ、声を荒げる。
「財団……? あの連中がついに動き出したってことかよ。ずっと様子をうかがってやがったくせに、ここで仕掛けてくるなんて……」
ドイツは腕を組み、低い声でつぶやいた。
「狙いは……間違いなく十六夜だ。あの少女を手に入れれば、奴らの計画が一気に進む。そう考えているのだろう」
フランスは苦々しげに唇を噛みしめる。
「子供を狙うなんて……恥も外聞もない。まったく、財団というやつらは、どこまで腐っているんだ」
絆川は黙って十六夜の肩に手を置き、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「何度言われても同じだ。絶対に渡さない。俺たちが守る。だから安心していい」
十六夜は緊張で肩をすくめながらも、かすかに頷いた。
「……はい。でも、もし私のせいで……みんなが危険に……」
絆川はその不安を遮るように、はっきりとした声で言った。
「違う。お前のせいじゃない。これは俺たちが選んだことだ。だから、ただ信じていてくれればいい」
部屋の空気は、次の戦いを予感させる重さで満ちていた。
第3章 財団の刺客
夕暮れ。庭の風がふっと止まり、重苦しい気配が満ちた。
影の中から、つば広の帽子を被った男がゆっくりと歩み出る。
「……名はビリー・ザ・キッド」
冷たい視線を投げ、男は西部の荒野からそのまま抜け出したような佇まいで銃を抜いた。
「我々は財団を継ぐ者。その少女を渡してもらおうか。これは命令ではない、宣告だ。拒否すれば、ここで全員倒れてもらうことになる」
七歌が即座に剣を構え、怒気を込めて叫んだ。
「ふざけんな! 渡すわけないだろ! 十六夜は俺たちが守るんだ!」
フランスも一歩踏み出し、声を張り上げた。
「子供を狙うなんて恥を知れ! 紳士ならそんな真似は絶対にしないはずだ!」
ドイツは盾を掲げ、低くうなるように言った。
「ここは通さない。誰一人として、この庭を越えさせはしない」
絆川は十六夜を背に庇い、まっすぐに男を睨み返した。
「何度言われても答えは変わらない。十六夜は渡さない。それだけだ」
ビリー・ザ・キッドは冷笑を浮かべ、銃口をわずかに上げた。
「ならば――力で奪うまでだ」
乾いた銃声が響き、戦いの幕が切って落とされた。
第4章 戦いの幕
銃弾が空気を裂き、庭石を粉砕する。
七歌が剣で弾き、フランスが隙を突いて蹴り込む。
ドイツは盾を前に出し、正面から弾丸を受け止めた。
「さすが財団の刺客……動きが速い!」七歌が額に汗を浮かべながら叫ぶ。
「だが俺たちだって負けられない!」
絆川の胸の奥で、冥川の声が囁いた。
(力を解き放て……お前の絆を示せ……)
絆川は剣を強く握り直し、声を張り上げた。
「魂解――絆が導く奇跡の約束!」
剣が光を放ち、迫る銃弾を弾き返す。
七歌も負けじと叫ぶ。
「魂解――七つの歌!」
剣が七色に輝き、音の衝撃波が空気を震わせ、ビリー・ザ・キッドの体を包み込んだ。
「ぐっ……!」
ビリーは押し返され、膝をつき、苦悶の表情を浮かべる。
戦いは、守る者と奪う者の意志がぶつかり合う瞬間だった。
第5章 平和の誓い
荒れ果てた庭に、再び夕暮れの風が戻ってきた。
ビリー・ザ・キッドは歯ぎしりをしながらも、煙のように姿を消す。
「……やったな」七歌が大きく息をついた。
「ひとまずは、だな」ドイツが周囲を警戒しながら言った。
フランスは十六夜に視線を向け、優しい笑みを浮かべる。
「大丈夫だったか? 怖かっただろう。でも、君は一人じゃない」
十六夜は小さく俯きながら、絆川にだけ囁いた。
「……みんな……守ってくれた。私……生きてる」
絆川は頷き、静かな声で応えた。
「そうだ。これからも、ずっと守る。何があってもな」
日本が全員を見渡し、落ち着いた声で締めくくる。
「はい、みなさん。今日の勝利を無駄にせぬよう、これからも団結して進みましょう」
こうして戦いは終わった。
だが財団の影は消えていない。
次なる試練が、すぐそこに迫っていた。
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