夢の中の君に会いに行く
みなと
はじまり
カーテンが朝日に照らされ、明るくなっている。
あ、もう朝なのか。外からはいつもと同じ音が聞こえる。隣りの古くなったお店を解体する音が、近所で遊ぶ子どもたちの声が。あの人がいた頃はこんな朝じゃなかった。もっと静かな朝だった、学校に行くために早起きして少しでもあの人に可愛いって思ってもらいたくて苦手な化粧も頑張った。それに朝が来るのが待ちどおしかった。朝一番にあの人に会うのが私の日課だったから。
でも、もうあの人はいない。あんなに待ち遠しかった朝ももう、来ない。でも、今日はいつもよりも良い目覚めかもしれない。久しぶりに夢を見たから。あの人がまだ私の隣にいたときの。
ここは東京では珍しい田舎。私はその田舎にあるマンションに小さいころから住んでいた。だから、管理人さんとも知り合いだ。といっても、私が学校に行くときに挨拶をするくらいだが。小さいころは管理人さんのことを魔女だと思っていたらしい。お母さんいわく。
ある朝、いつものように挨拶をして学校に行こうとすると、管理人さんから
「あ、待って、星月(ほしづき)さん。あなたに伝えたいことがあるの」
と声をかけられた。私に伝えたいこと・・・、なんだろうか。昨日、友達が来たときにうるさすぎて近所の人から苦情が出たのだろうか。それじゃないなら、お母さんが料理をするときに換気扇を付け忘れて窓から煙が出て行って通報されそうになったことだろうか・・・。いや、もうそれは怒られた。一体、何だろう。
そんなことを考えていると管理人さんが優しい声で
「何難しい顔してるんですか、星月さん。あなたの部屋の隣に人が入るんですよ。どんな方は私も知りませんが。今どきの人は挨拶にも来ないのかしらねぇ。
あ、呼び止めてしまってすみませんね。学校に遅刻しないように。いってらっしゃい。」
私は、ほぼ管理人さんの最後の言葉は聞こえていなかった。
お隣さん!私の頭には見えないだろうがビックリマークがたくさんついているだろう。そのくらいびっくりしていた。なぜなら、私の隣の部屋は物心ついたときからずっと空き部屋だった。お父さんがいたときも空き部屋だったらしい。これもお母さんいわくだが。
今、私たちが住んでいる部屋は元々、お父さんが住んでいた。そこにお母さんが一緒に住み始めたらしい。でも、今は私とお母さんの二人で住んでいる場所だ。
お父さんは山に登るが好きだったらしく、休日になると山登りに出かけていたらしい。山の頂上から見る星がきれいだ、とか山登りは男のロマンだ、とか言って。お母さんも山登りに付き合わされたことがあるって言っていた。でも、私は山登りをしたことがない。お父さんは私が生まれてすぐに山から転落してしまったらしい。私を連れて山登りをするために山の下見に行っていたときに転落したとお母さんから言われた。私は、お父さんらしい死に方をしたのだと思う。お父さんはお母さんにも「俺は死ぬなら山で死にたい。」とまで言っていたらしいから。
そんな私は山登りを好きになることもなく普通の高校生になった。お父さんの話は何度もお母さんに聞かされたことがあるがいまいちぴんと来ない部分が多い。でも、お父さんのことは大好きだ。
私は、管理人さんに言われたことを考えながら学校に行った。私は、学校までバスで通っている。あまり、お金はかけたくなかったがお母さんがいいのよ、そのくらい。あなたのための大事な投資なんだからって言ってバスで通わせてくれている。その分、私はバイトをしてお母さんを支えているつもりだ。
私は管理人さんに言われたことを考えすぎて、いつの間にか学校に着いて、席に座っていた。そして親友で幼馴染のアオの声をかけられるまでボーっとしていた。
「ゆーめか、おっはよう!今日もいい朝だね。おーいユメー。どうしたの?」
アオこと青葉みことは私の小さい頃からの親友で幼稚園からずっと一緒だ。アオはバスケ部の朝練があるため、私より早く学校に来ている。
「あ、おはようアオ。ごめんちょっと考え事してた。」
「ユメが考えごとなんてめづらしいね。どしたの?」
と言って、前の席に座ってきた。アオとはクラスが違うが朝はこうやって私のところに来るのが日課だ。まだ、時間があるが教室が騒がしいのでお昼のときに話すことにした。
「また、お昼に話すね。全然、深刻なことじゃないから安心して?」
私が笑いながら言うと、アオは
「え〜、なにそれ!気なるじゃん!」
私はアオはこういう反応をすると思っていた。だから、
「もうすぐ、先生が来ちゃうし、ゆっくり話したいから。」
と、私が言うと、アオは頬を膨らませながら
「むぅ~。わかった。じゃあ、いつものとこで待ってるから早めに来てね。」
「うん、それじゃあ、またあとでね。」
と言って、アオはその場を離れた。
次に続く…。
夢の中の君に会いに行く みなと @rai_ka1124
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。夢の中の君に会いに行くの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます