ブルームセレナーデ 〜始まりの者達〜
@Madriax_Qaal
夢が見せるモノ
───回向の儀。
それは毎年八月半ばの満月或いは新月に世界各地で行われる、慰霊の儀式。 死者が自らを死者であることを認識させあの世に送る為の、儀礼。 死者を弔う為、各地で月の巫女と呼ばれる者たちが祈りを捧げ舞を舞う。
陽が沈んでから夜が明けるまでその儀式は続く。
死者があの世に送られると季節外れの桜吹雪が舞い、月の巫女を祝福し、世界を祝福し、一年の加護をもたらす。
そう、言い伝えられている。
今年もその日がやってきた。
月が満ちたその日は雲一つ無く澄み渡り月送りを行うには絶好の日であった。 午前中に降った雨もいつの間にやらあがり何の影響もなく執り行われることになった。
額に碧い宝石のあしらわれたサークレットと装束を纏った巫女達が広場にある祭壇で日が沈むのを待っている。
夕焼けのオレンジと夜の紫が混じり合い何とも言えぬ色合いを見せる空の下で少女というには大人びていて、女性というにはあどけない雰囲気を持つ女がその髪を風に靡かせ、今にも沈もうとする太陽を背に今まさに昇ろうとする月を見ていた。
「此処に居ざる者達の魂の闇を感じるわ……。」
彼女は緋色の宝石のあしらわれたサークレットと巫女の装束をその身に纏っている。
隣には人魂のような何かが彼女の周りを飛び回るように浮遊しているが彼女は気にした様子も無い。
「生者の闇が此処にまで……一体、何が起ころうとしているの…………?」
月を見ながら彼女は憂う。
人魂とは違う何かは飛び回るのをやめ、憂う彼女に寄り添う形となる。
「おーーい、そろそろ時間だぞーー?」
「分かった、今行くわ……。
彼女は月に一度背を向け彼女を呼ぶ男性の元へ駆け寄る。
振り返り、その月を一瞥した時、一瞬だけ厚く黒い雲が月を覆い隠していた。
───月におわします死の神よ、今年もどうか聞き届けて下さいませ
石造りの祭壇の中央で、碧い宝石のあしらわれたサークレットと色鮮やかな巫女の装束を身に付ける金髪の少女が、片膝を立て祈りながら言の葉を紡ぐ。
少女は1度立ち上がりその両の掌を月に向かって掲げる。 その腕を下ろした後、祭壇に描かれた魔法陣の縁を辿るように舞いながら一周する。
月を象った杖のようなものをバトンのように回しその柄を祭壇の魔法陣の中央に下ろす、それと同時に魔法陣が淡く光を帯び始める。
───
少女の表情は極端に緊張を含んだものでこそないが、決して和らいだものでもない。
そしてその表情にはどこか悲しげなものを含んでいる。 何か思うことがあるのか、唇を固く結んでいる。
───だからどうか此処へと集え、世界に残る
少女が言葉を紡ぐ度、少女が祭壇の上で舞う度、魔法陣は少しずつその光を強めていく。
祭壇の周りには神官のような人たちが多数集まり儀式を見守っている。
───もえろ、全ての
田舎村で赤い髪と額の六芒星が特徴的な少女が言葉を紡ぐと足元の魔法陣から鳥を模した炎が現れ少女を柔らかに包み込む。 一瞬のうちに炎は消え、少女は言葉の続きを紡ぎ続ける。
───
祭壇以外の全てが雪で真っ白な街で雪と同じ色をした髪の小さな女の子が目を閉じ、手を開いてそこに息を吹きかけると辺りに更に雪が降る。 祭壇が凍り、女の子はその上を滑るように舞い始めた。
───煙霧
すぐ側に海があり船が止まっている、そんな街で尖った耳と透き通った水のような髪が印象的な少女とも女性とも取れる年代の女が月を象った杖で
突然に、桜吹雪が舞った。
八月の半ばだというのに、どこにも桜の花など咲いていない、咲いているはずもないというのに、風は全くと言って差し支えない程には吹いていないというのに、桜吹雪が舞った。
その一瞬の間。 巫女達から眼の光が消えて、何か違うものを見ていた。
『何か』を知った時、彼女らは果たして何を思うだろう。
『近い未来』を、その目にした時に───
もう、空が白み始めていた。
───
金髪の少女は何かに耐えているかのように唇を噛み締めるが耐えきれず、その双眸から涙が溢れ出す。
また
嗚咽をなんとか我慢して、声が震えて、一筋の涙が頬を伝って、最後の言葉を発することが出来ず、代わりに口を突いて出たのは、
「誰か……助、けて…………───」
涙は、祭壇に落ちて、
───────。
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