八と社と鱈の舞
毛 盛明
序章 静かなる夜の誓い
プロローグ
薄明かりの宮之前御殿。春の夜風が、揺れる簾の隙間から淡く室内を撫でる。義乃は小さな手をそっと重ね、まだ生まれぬ命の行く末を想った。
熱海御前の瞳には、言葉にできぬ痛みと、それでも未来を託す強い決意が宿っている。病に蝕まれながらも、彼女は義乃に優しく微笑んだ。
「この子たちは、あなたの手で育ててほしい」
義乃はただ頷き、胸の奥で燃える覚悟を固めた。
それは、ただの乳母としての役割を超えた、母としての始まりの誓いだった。
遠く、庭の鱈の舞う音が静かに響く。
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