イニシャルG老人VSブランド車――遊びは、こっちのルール

esErveandnowRTAreali

第1話

> 「退屈なんだ。ちょうどいい暇つぶしになるといいな」義玄、74歳。

復讐を終えてもなお、心のどこかに火種を残す男。

この日、彼が“遊び相手”に選んだのは――

レクサスエンブレムを貼りつけた、見栄とパワーのハリアー。田舎の峠。

街灯の切れたカーブの奥で、老人がひとり、音もなく待っていた。


彼の目的はただ一つ――

「退屈しのぎ」だった。


だが、やってきたのは思いがけない獲物。

白く輝くボディ、無駄に吠えるエンジン音。

フロントには“レクサス”のエンブレム――

だが、それはハリアーだった。運転するのは、都会帰りの金持ちドライバー。

服も車も“ブランド”で固めた男が、

田舎の老人を、ただの通行人と思っていた。


> 「おじいちゃん、それじゃついて来れないよ?」次の瞬間、風が鳴った。

義玄の目がわずかに細まり、唇が動いた。


> 「誰がついていくと言った? ――遊びは、こっちのルールだ。」樹海ライン――追い越しは可能だ。だが、多くのドライバーはその選択をしない。


狭く曲がりくねった道が続き、対向車のライトが一瞬しか見えない。

無理な追い越しは命取り。だからこそ、ここでの追い越しは腕の見せどころであり、度胸試しでもある。


義玄は知っていた。

大半が無理をしないこの道で、あえて仕掛ける意味を。東館を抜け、湖咲町へ続く樹海ラインの入り口。

最初の長い直線で、義玄の視界に一際目立つハリアーが飛び込んできた。


黒光りするボディにレクサスのエンブレム。

その存在感は、他の車の群れの中で一目でわかる。義玄の胸に小さな火が灯った。

「やっと、いい暇つぶしが来たか……」


彼の目が鋭く輝き、自然とアクセルに力が入る。義玄はゆっくりと車の集団の最後尾に位置を取った。

黒光りするハリアーは、その前方で堂々と存在感を放っている。


誰もが見下す軽トラックだが、義玄にとっては武器そのもの。ゆっくりとアクセルを踏み込み、ハリアーへ向けて勝負を仕掛ける瞬間が近づく。


「さて、始めるか……」

低く呟いた義玄の声に、夜の樹海ラインが静かに応えた義玄は警察が動き出さないギリギリの速度で、慎重に車の列を進めた。

多くの者が追い越しをためらうこの狭く曲がりくねった樹海ライン。


対向車の存在を確認しながら、義玄は一台ずつ、時には二台まとめて、確実に距離を詰めていく。ハリアーとの距離がじわりじわりと縮まる。

冷静な判断と確かな技術が交錯し、夜の峠に緊迫した空気が漂った。セドリック顔の軽トラックは、じわりとハリアーの後方へと位置を取った。

長い下り坂が視界に入る。


義玄は無理のない加速を見据え、慎重にアクセルを踏み込む。

強引さはない。挑発もない。ただ、静かに自分のペースで動くだけだった。車体が坂の勢いを借りてスムーズに速度を上げていく。

ハリアーの背後に滑り込むその瞬間、夜の樹海ラインに一瞬の緊張が走った。ハリアーのドライバーの表情が険しく歪んだ。

「何だ、コイツ……!」と苛立ちを隠せない。


だが、セドリック顔の車を操る義玄は冷静そのものだった。

焦りはなく、むしろ先を見据えていた。


次に控えるカーブは普段、木の陰に隠れ見通しが悪い。だが、季節は秋。枯れ葉が枝を覆い、視界はいつもより開けている。


この自然の助けを味方に、義玄は無理のない追い越しを仕掛ける。

狙い澄ましたその一瞬、樹海ラインの空気が一段と張り詰めた。ハリアーは対向車が迫る危険なタイミングで無理やり追い越しをかけた。

クラクションが鳴り響き、エンジン音が峠に響く。


だが、セドリック顔の軽トラックは一切慌てることなく、何食わぬ顔で次々と車をかわし、追い越しを続けていく。冷静に路面を見据え、確実にハリアーとの距離を詰めるその姿に、夜の樹海ラインは一層緊迫感を増した。次の長い直線に差しかかり、ついにセドリック顔が集団の先頭へと躍り出た。

坂の勢いをそのままに、滑るような加速で先行車をかわしていく。


後方のハリアーも、エンジンの力を解放すれば追いつける。

いや、本気を出せば軽トラックなど容易く抜き去れるはずだった。


だが――ハリアーは動かない。そのドライバーは、アクセルを踏み込むことなく、ただ黙ってセドリック顔の背中を見つめていた。

技術か、圧か、プライドか。何かに呑まれたように。だが――沈黙は突然、破られた。


まるで堰を切ったように、ハリアーがセドリック顔を激しく煽り始める。

クラクションは鳴り止まず、対向車線にはみ出したまま蛇行し、エンジン音は怒号のように響き渡る。まるで、自分自身の苛立ちをぶつけるかのように。

冷静さをかなぐり捨てたその走りに、周囲の空気が一気に張り詰めた。だが、見通しの悪いカーブに差しかかると、ハリアーはぴたりと車線を戻した。

怒りに突き動かされてはいるが、狂ってはいない――義玄は静かにそう見抜いていた。「やはりそうか。貴様も未来ある若者……死ぬ覚悟まではないか」


義玄の目がわずかに細まる。

その表情はどこか安堵を含みながらも、冷ややかだった。俺の妹は、俺とは違って皆に信用されていた。

――だからこそ、今の俺にできることは、暇を潰すことと、相沢まゆを守ることだけだ。一方、ハリアーは飽きることなく煽り続けていた。

クラクション、急接近、蛇行――そのどれもが挑発的で、苛立ちの現れだった。


だが、義玄は反応すら見せない。

ただ静かに、前を見据えたまま走り続けていた。「若者よ……それで楽しいか?

何も怖がらないのは、つまらんもんだぞ」


心の中でで、義玄はそう呟いた。「湖咲町高校の手前にインターがある。

お前は都会の道が似合う。……ここで終わりだ。」義玄の視界から、ハリアーの車は静かに逸れ、インターチェンジの闇に消えていった。

無言のまま、何も残さず。

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