2回読みたくなる異世界転生もの
みなもとあるた
2回読みたくなる異世界転生もの
「やっぱり異世界の文明はすごいですわ!こんなにたくさんの鉄の馬が道を走っているなんて!」
「そうかな?僕達にとってはこんなの全然普通のことだけどね」
カレンは長い金髪を風になびかせながら、きらきらと輝く目を道路に向けている。
ここはアメリカ、サウステネシー州。
どうやら彼女はつい最近こっちの世界に異世界転生してきたばかりらしい。街中をさまよっていた彼女を拾ったのが2日前のこと。この世界の知識を何も持たない彼女が、僕に出会うまでの数日間を1人で生き延びられたのは間違いなく幸運と言っていい。
「見てくださいまし!今度はもっと大きい鉄の馬が来ましたわ!」
カレンが遠くを指さして歓声を上げる。
おそらくだが、カレンのこの底抜けな明るさも彼女を守る要素の一つになったのだろう。
「この景色を見ていると、私達の文明がいかに原始的だったのか思い知らされますわね。限りある資源を奪い合って国と国とが争いを繰り返していましたのに、こちらの世界は本当に平和ですわ…」
彼女によると、彼女が元いた世界の文化や技術はこの世界のそれとは大きく異なるのだという。それならば、目に映るものすべてが新鮮に感じられるのも当然だろう。
ここは僕にとって住み慣れた退屈な田舎街だが、カレンからしてみれば超高度な技術がいたるところに使われている異世界の街だ。もし僕が逆の立場だったら、きっと彼女と同じように異文化の目新しさに魅了されていたに違いない。
「あとは、その『魔法の板』も、いつか使いこなしてみたいですわね」
「ああ、これのこと?」
考えにふけっていた僕の手元をカレンが指差す。彼女にはこれはただの「リンゴの絵が描かれた小さな板」にしか見えないだろうが、これには彼女の知らない「魔法」がたくさん詰まっている。
「僕のお古でよければあげるよ。ハイスクール時代に使っていたものだけど」
「本当ですの?」
カレンが両手を挙げて喜びを表現する。見た目はずいぶん大人びているのに、こういう無邪気なところは子供らしくて、まるで年の近い妹でもできたみたいだ。
「私、この魔法の板でもう一度あれがみたいですわ!えっと、確か、人工頭脳とお話ができる魔法?」
「気をつけてよ?使い方によっては危険なこともあるんだから」
僕が注意すると、カレンは急に落ち着きを取り戻して申し訳なさそうにはにかむ。
「でもせっかく異世界に来れたのですから、元の世界に戻ってしまう前にいろいろやっておきたいですわね。『マッキーマウス』にも会ってみたいですし、『モクドナルド』にも行ってみたいですし、あとはあとは…」
はしゃぐカレンの様子を僕はほほえましく思いながら見つめる。
カレンが元の世界に帰れる方法を考えるのも大事なことかもしれないが、何の手がかりもない以上、今はカレンの思うままに遊んでいてもいいのかもしれない。
「焦らなくても、カレンの知らないことは全部教えてあげるよ」
僕はそう言ってカレンの手を取り、歩き出す。
—
夜。カレンに貸している部屋の明かりがまだついていることに僕は気付く。
「カレン?まだ眠れないの?」
「いえ、今日一日の出来事を日記に付けていましたの。どの出来事もその詳細まで忘れたくないですから」
カレンは僕が貸したパジャマを着てベッドに横になっている。
カレンの目前に広げられている日記を覗き込むと、そこには『鉄の馬』のスケッチとともに線の細い文字がたくさん書き込まれている。
「あの鉄の馬の身体は一体どうなっているのかしら?身体は頑丈な鋼でできているのに、私の世界の馬と同じように四本の足で柔軟に走れるんですもの。あれが私の世界にあれば、自動車は要らなくなって地球温暖化もすぐに解決しますわ」
「あれは召喚錬金術の一種だよ。金属を動物の形に召喚して使役するんだ。そうすれば、鋼の頑丈さを保ったまま動物のように柔軟に走らせることができる」
僕が省略形の簡単な魔法陣を日記に書いてみせると、小さな鉄の馬が数秒だけ机の上を走り回って消える。
わあ、とカレンが小さな歓声を漏らす。
「昼間に渡した魔法の板でも似たようなことができるよ。あの中にも目的別に何十種類もの魔法陣が圧縮して書き込まれているから、まだ空きがあるならそこに召喚錬金術の陣を追加してやればいいんだ」
「なるほど…きっとそれが私達の世界で言うところのアプリなのですね」
カレンの言う『あぷり』がどんなものなのかよくわからなかったが、きっと彼女の世界にもこちらの世界で言う魔法の板のようなものがあって、その中にそういった名前の技術が使われているのだろう。
「そういえば『魔法の板』にリンゴの模様が描かれているところも、どことなくiPhoneのデザインに似ていますわね。もしかして、リンゴの意匠が知性を表すのはどの世界でも共通なのかしら?私たちの世界は似ているところが多いのに、どうしてこんなにも技術は異なるのでしょう」
「ああ、そういえばカレンの世界にもアメリカという国は存在するんだったね。そっちのアメリカには『マッキーマウス』じゃなくて『ミッキーマウス』がいて、『モクドナルド』じゃなくて『マクドナルド』があるんだっけ」
「ええ、1文字違うだけなんて、まるで漫画やアニメによくある商標権侵害対策のようですわ。これではまるで異世界ではなく平行世界のようでもありますけれど、魔法という概念が生活の根底に存在しているこの世界の成り立ちは、どう考えても私たちの世界とは異なるとしか思えませんもの。それに…」
「それに?」
「ここはアメリカなのに、当たり前のように日本語が通じるのも不思議な感じがして」
「にほんご?」
「ええ、先ほどから私達が話しているこの言葉が日本語ですわ。私の世界のアメリカでは、公用語として英語を話しますの。私は全く英語が話せませんから、この国の名前がアメリカと知ったときは本当に焦りましたわ」
「僕達の話してる言葉って、英語じゃないの?漢字とひらがなとカタカナを使い分けるこの言語のことを、カレンの世界では日本語と呼ぶのかい?」
「そうよ。私たちの世界ではこの言葉のことを日本語と呼ぶし、アメリカには日本州もサウステネシー州もなくて、日本は独立した国家なの。日本に生まれた私が言うのだから間違いないわ」
魔法なしで成立しているほど文化の異なる世界なのだから何があってもおかしくはないと思っていたが、まさか僕の住んでいるサウステネシー州そのものがあちらの世界に存在していないとは。
「この小説だって、別に作者が読者のことを思って日本語で書いているわけではありませんのよ。ましてや、異世界転生のお約束で特に説明もなく異世界人に日本語が通じているわけでもありませんわ。私達が皆さまにとっての日本語で会話しているからこの小説も日本語で書かれているだけであって、もしも私達が皆さまにとっての英語で会話していたならば、きっとこの小説は英語で書かれていたでしょうね」
「なんだかよく分からなくなってきたけど、とにかくカレンが居たのは名前が似ているだけでまったく異なる世界だってことだけはわかったよ」
「ところでもう一つ尋ねてみたい事があるのだけれど…」
カレンがベッドにあおむけになって、興味深そうに僕の顔を下から覗き込む。
「あなたが男の子みたいな口調で話すのも、こちらの世界の文化なのかしら?」
「…それは別に関係ないよ」
僕は唇をつんと尖らせた。
2回読みたくなる異世界転生もの みなもとあるた @minamoto_aruta
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