NANOTRYPA®──寄生虫から生まれた奇跡と、最も倫理的な裏切り
伽墨
プロローグ アフリカ睡眠病とトリパノソーマ
皆さんは、「アフリカ睡眠病」って聞いたことがあるかしら?おそらく、今これを読んでいるあなたは、あまり詳しくは知らないかもしれないわね。でも、それも仕方がないわ。だって、あなたの時代において、アフリカ睡眠病は「顧みられない熱帯病」の一つに過ぎないもの。
さて、アフリカ睡眠病って、どういう病気かというと——簡単に言うと、ツェツェバエという吸血性のハエが関わっているの。そのハエの体内には「トリパノソーマ」という寄生虫がいて、この虫がヒトや家畜の血を吸うとき、私たちの体内に入ってくるのよ。
「寄生虫の話なんて、興味ないわ」なんて言わないで。ちょっとだけ、ついてきてほしいの。この物語は、トリパノソーマなしでは語れないから。
トリパノソーマ、どんな姿か想像できるかしら?とても小さな、ミミズのようなものだと思ってくれればいいわ。それが私たちの体に入ると、ある特別な仕掛けを使って免疫を欺くの。具体的には、VSG(可変表面糖タンパク質)というものを使って、自分をどんどん変化させることで、私たちの免疫システムから逃げることができるの。
「免疫システムって何?」「VSGって何?」なんて思うかもしれないけれど、大丈夫。簡単に言うと、私たちの体には「外から侵入してきた敵」を排除する仕組みがあるの。それが、免疫システム。だから、ウイルスや細菌が入ってきても、私たちの免疫システムはそれを見分けて排除する。でも、トリパノソーマはそれをうまくかわして、私たちの免疫を欺いて、大量に増えていくのよ。
そのうち、トリパノソーマは私たちの脳まで到達するの。この段階になると、感染者はだんだん眠くなり、最終的には静かに死を迎える。これが、「アフリカ睡眠病」と呼ばれる所以よ。
アフリカのサハラ以南では、この病気が家畜の移入を阻む要因となり、それが結果的に農業や文明の発展に影響を与えてきたの。家畜がいなければ農業ができないし、農業ができなければ文明は成り立たない。自然な流れよね。——たかが寄生虫、されど寄生虫。どう?少しでもこの物語の続き、気になってきたかしら?
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