07.午前の探索(2)

 ***


 打ち合わせ後、真白は宿を出て教会へやって来ていた。

 村はやはり差ほど広くないので、目的地まで十数分程度で辿り着いてしまった。


「うーん、かなり新しいかも」


 最近建てられたであろう外壁の輝く塗装。何でも雨風に晒されれば、相応の年季が入るものだがそれらは感じ取れない。窓に嵌るステンドグラスも曇りがほとんどなく、経年劣化の兆候も見られなかった。

 外観に一般的な宗教の教会と異なる部分はない。というか、神格存在との関わりは者によっては法に触れるので外観で分かるようにはしないだろう。

 何と言うか――スケープゴートがリノベーションして使っている教会にも言えるが、神格存在を奉る教会にはちょっとした違和感が付き纏う。何となくイメージしている教会と乖離があるような、ニオイのある空気感とか。


 ――さあ、中はどうかな。やっぱり中を見てみないとね。

 教会など出入り自由だ。祈りを目的に、とそういう調子で足を踏み入れれば声すら掛けられないだろう。

 敬虔な信者を装い、中へ。

 そして敷居を跨いだ瞬間には中にいたシスターに声を掛けられた。驚きなど微塵も感じさせないのを見るに、宿で打ち合わせをしている間にでも余所者が来たと周知されていたと考えざるを得ない。


「旅の方、どうされましたか? ああ、貴方も祈りを捧げに来たのでしょうか」

「えへへ、実は……綺麗な教会があったので、旅行の無事を祈りたくて」

「それは大変結構な事です。さあ、好きな所におかけください。わたくしも皆様が無事に旅を終え帰路へつけるよう、祈りましょう」


 手慣れた様子で椅子に腰かけた真白は祈りながらも教会の内装を観察する。

 一見するとやはり変な所は無いように見える、小さな教会。

 ただし一般的な教会内部にあるいくつかのオブジェクトが意図的に外されているのが見て取れた。

 例えば十字架。特徴的な聖母の像。

 あるべきものが無いという微かな違和感。この教会は何を信仰する教会なのか、その根底を揺るがすような物のなさである。


 ――今まで仕事で色々なカルト教団に出会ったりしたけれど。

 教会を新しく建てた事が伺える熱心さなのに、中途半端で何を信仰したいのか薄ぼんやりとしている感覚。村ぐるみで信仰に身を捧げていると思われるのに、どことなく本人たちも何をしていいのか理解していない空気感。

 これにはよくよく覚えがある。

 宙ぶらりん教団は、スケープゴートの隣にも居を構えているからだ。


 ――とりあえずこの情報だけでも持ち帰ろうかな。

 見える範囲に回収するべき魔導書の類は無い。教会内部の物置だとか、倉庫だとかにしまい込まれているのかもしれなかった。


 ***


 村内の情報収集を請け負ったグレンは村の様子をそれとなく観察していた。

 行き交う人々は村到着時より増えたように思われる。単純に、住人が活動を開始しただけなのかもしれないが。


「――どうかされましたか? 何か、探し物でも?」


 不意に声を掛けられた。村の女性だろう。

 即座にその久墨が整っていると太鼓判を押したフェイスに笑顔を貼り付ける。そう、他でもない我等が店主がそう言うのならばこの顔面には価値があるのである。


「こんにちは。折角なので少し散歩を」


 少しばかり顔を赤くした村の女性はそうなんですね、とにこやかに頷く。


「村は何もありませんが、自然風景ならいくらでもありますから。そうですね、教会付近なんてどうでしょうか?」

「へえ」

「教会は建てたばかりですから。自然との調和が美しいんですよ。もしよかったら、ご案内しますけど……?」

「いえ、お気になさらず」

「そうですか? あ」

「?」


 残念そうにした女だったがしかし、何かを思い出したように手を叩いた。


「そうだ、丁度明日、村で収穫祭があるんです。年に2回しかない、数少ないイベントなので皆さんもどうでしょうか?」

「収穫祭……」

「はい! タイミングも良いですし、出来ればご参加いただきたいです」


 グイグイと念を押してくるのが非常に不審である。

 とはいえこういったタイミングの良過ぎるイベント事も何でも屋をやっていればよくある話だ。本当にタイミングが良いから誘われているのか、タイミングを無理矢理合わせて来たのか――答えは明日分かるだろうが。

 ともあれ笑顔を崩さないグレンはさらりと誘いを有耶無耶にする返答を口にした。


「それは楽しそうですね。他に2人、仲間がいるので参加したいか聞いてみます」

「はい、よろしくお願いします」


 女性と手を振って別れ、散歩という名の偵察を続行。

 ふととある人物に目が留まった。


 ――武装している?

 大きな町には必ずいる警察官、それらが腰に巻いているベルトのような物を携えた人間が数名いるようだ。ホルスターには拳銃と思われる武器が収められている。本物かどうかはこの距離では分からない。

 町でこんな危険人物がうろついていれば大混乱間違いなしだが、村人達に彼等を警戒する様子はない。どころか普通に会話をしているようだ。

 ――警備員的な存在という事か? 武装した人間を普通に立たせているのもそうだが、やはり普通の村じゃなさそうだな。

 この危険人物達については注意を払う必要がありそうだ。

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