2作目・アルビオン王国宙軍士官物語~クリフエッジと呼ばれた男~(クリフエッジシリーズ合本版)

 皆様如何お過ごしでしょうか?前回の投稿で自分の余りの文章力の低さを突きつけられ、ちょっと自信喪失気味のわだつみです。

 とは言え、折角始めたのですからめげずに頑張って参ります。


【作品名】


『アルビオン王国宙軍士官物語~クリフエッジと呼ばれた男~(クリフエッジシリーズ合本版)』 愛山雄町様

https://kakuyomu.jp/works/16816452220904187565


【レビュー】


 ― 古き良き海の漢達が星の大海原へ ―


 作者様もキャッチコピーやあらすじで述べられていますが、ハヤカワ文庫のSF小説の様な世界観の中で、同文庫の海洋冒険小説の登場人物達が活躍する。そんな作品です。また、一部には日本のスペースオペラの風味も感じられるかな?

 そんな古典と古典を掛け合わせて生み出された作品ですが、複数の書籍化実績をお持ちの作者様が両者を実にバランス良く、そしてお互いに引き立て合うかの様にブレンドされた壮大な作品に仕上がっています。

 どちらかと言えば海洋冒険小説のテイストが強い、私にはそんな風に感じられました(私がそちらの方が好きだからかも……)が、設定の端々から感じられる作者様のSF愛から察するに御本人としてはSFがメインなのかもしれません。


 練り込まれた世界観の中で重厚なストーリーが展開する作品で、正直言ってサクサクと読み進められるタイプではありませんが、その分読了後の満足感も非常に大きなものです。

 話数も非常に多く、長くゆっくりと味わって頂きたい大作です。


【作品紹介】


 さて、今回紹介する『アルビオン王国宙軍士官物語~クリフエッジと呼ばれた男~(クリフエッジシリーズ合本版)』は私がWeb小説と言うものを読み始めた初期からずっと追いかけている作品の一つです。とは言え、私はコロナ禍の時期に足を踏み入れた新参者ですのでそう大して前ではないのですが……


 今でこそ歴史系統の小説を読み漁り、自らもその末席で筆を執るようになりましたが、当時はSFを主に読み漁っていたものでした。本当は海洋冒険小説を読みたかったんですが、ぽい物は有っても私の望むような作品には巡り会えなかったのです(どなたか素敵な海洋冒険小説をご存じでしたら是非ご教示下さい。)。

 そんな中で出会ったこの作品は本格的なSFでありながら、海洋冒険小説のテイストをふんだんに取り入れた、正に私が探し求めた一作でした。


 とは言え、海洋冒険小説って何よ?って方も多くいらっしゃるかと思います(私の作品にコメントを下さる読者様の中には頼もしいことに大変造詣の深い方が数名いらっしゃる様ですが)。

 日本で言うそれは、一般的にはアメリカ独立戦争からフランス革命戦争、ナポレオン戦争と続く、凡そ西暦1800年前後のイギリス海軍の士官の活躍や栄達を描いた作品群を指すのではないでしょうか。

 帆船が技術的に最盛期を迎え、火砲の性能の向上も伴った結果、戦列艦やフリゲート艦と言った船が世界の海を股に掛けて走り回る、そんな世界です(某ゲームから入ってスループ船とスループ艦スループ・オブ・ウォーの違いが理解出来ずに混乱の極みに叩き落された私の様な方もいらっしゃるかもしれません)。

 そして帆船が海の主役であった最後の時代でもある、そんな時代を描いたものです。

 正直、専門用語も多く取っ付き易いジャンルではないでしょう。ミズントガンスルのクリューラインなんて突然言われても知らない人には只の暗号でしかありません(私がこれらの作品に触れ始めた十代前半の時期はインターネットなんてものは技術的に開発されたかどうかくらいの時代だった)。

 そんな本作ですが細かな話をすれば、主人公の立ち位置等に海洋冒険小説の中でもボライソーシリーズの影響を強く受けていると感じます。


 そんな海の漢の世界から飛び出して来た様な船乗り達が帆船から宇宙戦艦に乗り換え銀河へ飛び出す。そんなロマンと言う袋にロマンをぎゅうぎゅうに詰め込んだ作品です。

 とは言え、ここまで読んでもちんぷんかんぷんな方も多いのではないでしょうか。そんな貴方に色々な語弊があるのを承知で端的に申し上げれば、銀英伝の世界観を3極構造にした上で主人公を一人に絞り、個別の艦とその乗組員の活躍に焦点を合わせた。そんな感じでしょうか。

 語弊を恐れずに端的に説明したのにちっともわかりやすくなっている気がしない……


 勿論、まんま銀英伝かと言えば全然そんな事はなく、特に宇宙船の描写には科学的考察や数値的裏付けが多くなされ、これらを省略しがちなスペースオペラとは異なった本格SF的な味付けも大いになされていたり(逆にこれが取っ付き難さや難解さに結び付いてもいると言えるが)。

 また、主人公が最初から多くの艦を率いる立場にあった銀英伝と違い、主人公之立場が徐々に上がって行くと共に描写される範囲も変わっていく(最初は一番下っ端で一艦の艦内での様子が主であるところから、艦を指揮し、艦隊を指揮する立場へ変わって行く。この辺りは非常に海洋冒険小説的とも言える。)、と言った違いもあります。


 一方、総じて冗長で回りくどい描写が多いと言った面も見受けられますが、そもそも本格SFや海洋冒険小説ってそう言うものだよねと理解している人間からすれば特に気になりませんでしたが、もしそう言うとこらが気になるならそう言う場面は読み飛ばして胸躍る場面へ進んでしまっても良いと思います。


 さて、良くも悪くも硬派な本作。これからの秋の夜長にはピッタリの読み応え十分な作品です。是非、星の大海原へと航海に出てみてはいかがでしょうか?

 え?秋の夜長なんて当分来そうにない?夏の寝苦しい夜にも良いんじゃないですか?(投げやり)

 

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