第5話〜第6話 あと少し
ー第5話ー
「ちょっと、ナズナさん?少し休んだら?」
神代が話しかけると、
「神代先生、大丈夫っすよ。ちゃんと食事は取ってます。あと、少しなんです。」
「ナズナ先輩、目にクマできてます。少し休みましょう、流石に倒れますよ。」
マサノリが話しかけても、
「マサノリ、大丈夫だよ。睡眠は一応取ってるし、もうアイみたいな子を出せないの。あと少しなの。」
どうやら、アイの事件のあとからこの調子のようだ。
せっかくゆるゆるな学校生活をしていたのに、また自分を追い込みながら作業。
最近の口癖は‘あと少し’。
あと少し、あと少し、あと少し。
喧嘩が起こったら止めて…じゃなくて最近のナズナは、喧嘩を‘戦争’と名付けたらしい。
大きな大陸同士の喧嘩を止める。また止める。
無我夢中に止める。
それを、マサノリと神代は見届けることしかできない。おそらく二人も疲れているはずなのに、ナズナのサポートに、と学校へ遅くまで残る。
すると、始まりの神が学校を休校にした。
神代とマサノリが安堵している横で、ナズナは不安でたまらなかった。
学校へ帰ったら死の通知が自分の世界から来てないかとても心配なのだった。
〈早く学校始まらないかな〉
ただその気持ちでいっぱいだった。
ー第6話ー
学校が始まった日は、ナズナが一番に登校し、すぐに通知表を見た。
一人も死んでいない。
少し心が軽くなった気がした。
ほっとしたのも束の間で、すぐに作業に移ろうとしたが、マサノリが登校し、すぐに朝会が始まった。
ベルがなったら神代が教室に入ってきては、礼だけし、座り今日のアナウンスを聞く。
ほぼ毎回アナウンスなどなかったが、今回はあった。
「今日からナズナさんとマサノリくんは一緒に作業してもらいます。これは、校長からの命令です。」
マサノリは以上に冷静だった。きっと知っていたのだろう。ただ、ナズナは驚いていた。
一緒に作業なんて一度もしたことがなかったからだ。
仕方がなくお互いの机をくっつけ、世界の様子を表す画面をシェアし、コントロールをした。
早速、喧嘩が起こった。喧嘩内容は土地の奪い合い。ナズナはすぐにお互いの欲しいものを出そうとしたが、マサノリは止めた。
そしてその喧嘩…ではなく戦争を数十年、つまり天界では10分のことを放っておくことにした。
すると、戦争が止まった。
和解し、人間同士が握手をした。にこやかな顔で、街の人はまだ笑顔の人間は少ないが、多くが宴を開いていた。
ナズナは目を丸くしてじっと見ている。マサノリはそれを確認し、神代へ報告しに行った。
ナズナは大きな間違いをしていたのに気づいた。
“仲直り”の存在が、こんなに短い間待つだけで、こんな平和になるなんて。
思いもしなかった。
“私の、勉強不足だ”
ひどく後悔したことだろう。
すこし待つだけ。
そんなことで世界が平和になるなんて。
安堵と、嬉しさと、なんだか色々な、嬉しい感情が心の中でパチパチと動く。
いつのまにか、ナズナは寝ていた。
夢の中では、ナズナとアイが話している。
【アイちゃん、笑顔が素敵だよね】
【ナズナちゃんは頑張り屋さんだよ】
【アイちゃんは優しい!】
【ナズナちゃんは思いやりがある!】
なんて、いいところだけを言い合っている。
そして最後には、
【あっはは】
と二人で笑い合っている。
アイは、口紅をまだ塗っている。
ああ、いつか私もつけてみたい、そう思ったナズナなのであった。
ナズナの思う平和とは何か。
平和って土地があること?
平和って食べ物があること?
平和って娯楽があること?
平和ってドアの開け閉めで喧嘩しないこと?
いいや、ナズナの幸せは大切な人と笑い合えること。
そう気づけた。
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