縁側で

@wanwanwan123

第1話

初夏のやわらかな日差しが、縁側に差し込んでいた。







畳の匂いと、庭の土の匂いが混じり合う、懐かしい香りに満ちた空間。そこは、私にとって特別な場所だった。


「ほら、おじいちゃん、そんなにがんばらなくていいってば」


座布団を背もたれに、ゆったりと腰を下ろしたおじいちゃんは、手にした将棋盤から目を離さない。その隣で、孫のケンタが「負けたー!」と悔しそうな声を上げる。

「まだまだじゃな」


おばあちゃんは、お茶を淹れながらにこやかに見守っている。


「今日はね、みんなが来るから、お団子を作ったんだよ」

そう言って、熱々の餡子が乗ったお団子を差し出す。私も一つもらい、もちもちとした食感と、素朴な甘さに顔がほころんだ。


縁側には、親戚のおじさんやおばさんも集まり、賑やかな声が響く。庭では、子供たちが元気いっぱいに走り回り、その笑い声が風に乗って運ばれてくる。

「こんなふうに、みんなで集まるのも久しぶりだね」


遠くから遊びに来た従姉妹が、つぶやくように言った。普段は都会で暮らしている彼女は、この縁側で過ごす時間を心待ちにしているようだった。


夕方になり、空が茜色に染まり始める。縁側から見える景色は、どこまでも広がる田んぼと、遠くの山々。カエルの鳴き声が、どこからともなく聞こえてくる。


「もうすぐ夏祭りだなあ」

おじいちゃんが、ぽつりと言った。


「来年もまた、みんなでこの縁側で花火を見ようね」

おばあちゃんの言葉に、みんながうんうんと頷く。


縁側は、ただの家の付属物ではない。それは、家族の歴史を刻む場所であり、未来への希望を繋ぐ場所。この温かい縁側で、これからもたくさんの思い出が生まれていく。そんなことを思いながら、私は茜色の空を眺めていた。

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