二章07話 ケイテニアス山のアンデッドな竜王

二章07話 ケイテニアス山のアンデッド


[newpage]#01 生命の滅びた山

 ケイテニアス山への道は、命の気配が無い、滅びた山道となっていた。

『サトル君、可愛かったわね、キーノ』

『え、えぇ・・・』

 ついて来るといったキーノを置いてきて、母親アンネ・ファスリス・インベルン(CV:クミコ=ぶくぶく茶釜)に預けたのは、サトル=モモンガだった。

「サトル。私と居て、楽しかった?」

「あぁ、俺は、キーノとの、約束を果たす』

 キーノとの約束、滅び去った家族を取り戻して、元凶を叩き潰す。

「サトル・・・」

 白麗の骨格Over Lordの身体に、金髪蒼肌紅瞳True Vampire吸血姫キーノが、飛び込むように抱き着いていく。アンデッドになった、インベリア王国の人間を、遺伝子と身体情報から、金髪白肌虹瞳アルコパーナの特徴を持つ、赤子として転生させることには成功した。アベリアは、女騎士を目指して、剣を取ることを選んで、紅眼公に訓練をつけてもらいながら、弟妹の世話をしている。

「キーノ。サトル様は出発するのよ・・・」

 ゆっくりと、キーノを抱き上げるように、白麗の骨格Over Lordのサトル=モモンガから預かるのは、キーノの母、アンネ・ファスリス・インベルン(CV:クミコ=ぶくぶく茶釜)だった。

「サトル様、御武運をお祈りします」

「は、はい。必ず、戻ります」

 サトル=モモンガにとって、母というのは、絶対の存在であった。キーノの母親は、記憶は無く徘徊しているけれど、金髪蒼肌紅眼Vampire Ladyの姿は、真祖に仕える姿となっていた。そんな、キーノの母親に、クミコ=ぶくぶく茶釜は、分体を組み込んで、キーノの母親役を演じていた。キーノとサトル=モモンガが、「契り盃」を交わしたから、アンネ・ファスリス・インベルンは、サトル=モモンガにとって、義母親ステップマザーということになる。

 瞬間移動テレポーテーションで消え去った、白麗の骨格Over Lordの姿を追うように、視線が彷徨いながら、

母様かあさま。行ってしまいました」

『キーノ。良いの、私が母で・・・』

 念話で確認すると、

母様かあさまは、母様かあさまです」

『ありがと』

「さ、こっちも大変よ」

 赤子達が増えた、インベリア王国の王城は、生気プラーナに満ち溢れて、赤子の泣き声が響いていた。

「はい。母様かあさま

 グラズン・六花ロッカ、アリシア、ユリシア、シエルが、交代で金髪白肌虹瞳アルコパーナな子供達を産み、王城を開放して育てていた。成長と形質確認のために、年長となっていた、アリシアが姉となって、弟妹の世話を手伝っていた。

 赤子達は、アンネ・ファスリス・インベルンの養子となって、新たな金髪白肌虹瞳アルコパーナの子供達に育っていた。


[newpage]#02 生命無き、死の山ケイテニアス

 突如として、生者が死者アンデッドとなったのは、故意であり、何者かの意志による行為によって、生み出された結果である。調査の結果、原因となったのは、ケイテニアス山のどこか・・・近づけば、徐々に瘴気マターに溢れ、黒い靄が濃くなっていた。白麗の骨格Over Lordには、無数のアンデッドが蠢く気配が、強くなって予測は確信に変わっていた。

 相手はおそらく、プレイヤと思われる、八欲王と戦った竜王と同等の存在、そしてアンデッドのドラゴン・・・

『ドラゴンねぇ・・・』

『“YGGDRASIL”のドラゴンも、特別でしたね』

『えぇ・・・』

 “YGGDRASIL”の中でも、ドラゴンは、特別な存在であり、圧倒的な存在として設定されていた。世界を滅ぼし喰らう竜王ワールドエネミー・ドラゴンは、パーティ以上でなければ斃せないと設定された相手だった。


 首から“深淵の躯”の証となる、首飾りをかけて、いつもの神級アイテムである、漆黒のローブを纏って、肩に蒼とピンクの伏羲と女媧の盾を装備していた。


 大量のアンデッドが、密集していることは、白麗の骨格Over Lordの探知で、確認することができた。

『ほんと、凄まじい数だ・・・』

 都市というより、複数の国を滅ぼして、大量のアンデッドを生成して、一部を自分自身に取り込むように、一点に密集させている。アンデッドの反応は、無数の蠢きとなっているが、ほぼ一点に集中していた。

虚偽情報フォールステイタス魔力マナ体力ライフ

光輝緑の身体ボディオブイフアルジェントベリル

飛行Fly>・・・<上位全能力強化グレータフルポテンシャル>・・・<天界の気ヘブンリィオーラ>・・・<感知増幅センサブースト>・・・

いくつもの支援魔法を、重ね掛けをしていった。


 山の中腹に、大きな洞穴が開いていて、中からは大量のアンデッドが気配に満ちていた。


[newpage]#03 アンデッドの塊は喋った

 踏み込んだ先は、驚くほどに大きな3キロくらいはある、広間になっていて、天井は開けて太陽の光が注いでいた。しかしながら、広間の中央には黒い巨大な塊が、溢れるように転がっているだけだった。

「ほぉ、巨大な存在があるかと思ったが、知性の無いアンデッドの塊があるだけか・・・」

 言葉に反応するように、黒い巨大な塊が、姿を変えるように、巨大な首や頭、羽や尻尾の形状へと、変化していった。

「ドラゴンか・・・」

「あまりの愚かさに、無視してやろうと思ったが、止めたよナイトリッチよ」

 開いた口の奥底から、流れるような声、

『本体は、死体の向こうね・・・』

 開いた口には、動物の姿も多く、周辺の生き物すべてを取り込んだような、禍々しい姿になっていた。

『はい。こっちOver Lordを知らないですね』

『そうみたいね』

「愚かな我を知らぬのか」

低く響くように、声が黒い塊の奥から流れる。

「ふぅーん、アンデッドの群体が、ドラゴンの形をとっただけのくせに・・・名乗りもしない愚物のくせに」

「ふん。我は●●●竜王、キュアイーリム・・・朽棺の竜王エルダーコフィンドラゴンロードよ」

『やはり、竜王ね、サトル、本名は、聞き取れなかったけど』

『はい。クミコさん』

火球ファイアボール

 黒い塊に、火球を放つと、一部がボロボロと崩れ、無傷のゾンビが内側から溢れて、埋めていった。

「な、なんだ、ゾンビの下もゾンビなのか・・・」

 驚いたふりをして、飛行Flyで少し下がる。

火球ファイアボール・・・あの忌まわしき輩が、広めた歪んだ魔法か・・・不快だな」

「ほぉ、都市の人間をアンデッドに換えて、鎧のように纏っているだけか」

「ははは、愚かな愚物、それだけと思うな」

 一瞬で間合いを詰めるように、黒い塊が突進して、蒼い盾伏羲の盾に弾かれるように、白麗の骨格が後ろへと弾かれて、大きく距離を開ける。地面と接しているアンデッドが、タイヤのように回転して、高速移動を実現していた。

雷撃ライトニング

 ドラゴンの巨木のような腕を、雷撃が貫いて、数体のゾンビが崩れ落ちていって、またゾンビで内側から溢れるように、身体を再構築していった。

「そんな攻撃では、何万発も打たねば、役に立たぬ、愚かな攻撃だ」

 巨大なドラゴンの左腕から、小さなゾンビ竜が現れて、飛び出るように、サトルに喰らいついてくる咢を、蒼い盾伏羲の盾が弾く。ゾンビ竜の顎が、衝撃によって、砕けていた。

「同族をッ」

 サトルが、哀れに思って、叫ぶ・・・

「ははははは。こんな、劣等種が、同族、道化だな」

 ドラゴンには、寿命が無くHPとMPは年齢で上昇を続ける、かつての竜王は始原の魔法Wild Magicという、今は失われた魔法が仕えるという。若い竜は、始原の魔法Wild Magicを使うことができず、位階魔法しか使えない。この世界のドラゴンについて、“深淵の躯”が調べた資料は、間違っていなかったらしい・・・

「八欲王か・・・」

「あぁ、あの穢れたゴミが、世界を歪めた・・・」

 やはり、八欲王が、ワールドアイテムで、この世界の魔法システムそのものを、書き換えてしまったようだ。

 黒く醜いキュアイーリムの腕から、巨大な手が顕れて、棍棒を振るってくる。

「巨人?」

 巨人のゾンビが、上半身を顕す。

太陽光サンライト>を放つと、黒く醜い表面を、薄く焦がす。呆れたように、不死の竜キュアイーリムが、奥底から表面に顕れる。

「愚かな、第三位階が、限界か・・・つまらん」

『誤解できたかな、あれ、本体だよね』

『はい、クミコさん・・・こいつは、滅ぼします』

 サトル=モモンガにとって、インベリア王国を滅ぼし、キーノを悲しませた・・・それだけで、AOGの敵であり、滅ぼすべき相手となる。

『了解・・・』

 アイテムボックスから、SoAOG、ギルドの象徴を取り出す。

「いくぞ、ギルドの証」

「おぉ、その杖は、見事だな、寄越せぇ」

 腕から顕れる巨人の姿が、上半身だけでなく、下半身も露わになって迫ってくる。 さらに、後方に跳ぼうとすると、

「逃がさんッ。世界断絶障壁」

 後方に伸ばした、ピンク粘体でできた膜が、壁で止まる。白麗の骨格Over Lordの白磁の手骨が、壁を抜ける。

始原の魔法Wild Magicだよ、触手が出れない』

『確認した、やはり、ワールドアイテム相当だ』

 サトル=モモンガは、ワールドアイテムの通称“モモンガ玉”を装備しているが、クミコは装備していない。このまま、後方に飛ぶと、ピンク色の肉棒な粘体Pink Elder Oozeだけが残される。

 巨人の棍棒が、殴りかかってくるのを、蒼の盾伏羲の盾が防ぐが、巨人の筋力は不死となっても強く、押されていく。

『私は、大丈夫だよ、サトル』

『だめですよ、クミコさん、こいつは、ここで、斃します』

 SoAOGの自動迎撃で、七色の光Rainbow Arrowが放たれて、巨人の腕を棍棒と一緒に砕いた。

「ほぉ・・・杖による攻撃か・・・」

 朽棺の竜王キュアイーリムの本体が、醜いアンデッドの壁に潜り込むように、逃げ込んで隠れた。

炎の嵐ファイアストーム

 アンデッドの竜体の頭を吹き飛ばすと、黒いアンデッドの竜体の動きが鈍る。

あらゆる生ある者の目指すところは死であるThe goal of all life is death

黒き豊穣への貢ぎ物イア・シュブニグラス

視界を奪って、超位魔法を仕掛け、課金アイテムで時間を合わせて起動させる。


 朽棺の竜王キュアイーリムはともかくとして、表面を覆っている、ゾンビの塊は、ほとんどが低レベルであり、即死効果に耐性を持っていない。黒き豊穣への貢ぎ物イア・シュブニグラスによって、薙ぎ払うように、ゾンビ盾が一掃されていって、すべてがあらゆる生ある者の目指すところは死であるThe goal of all life is deathによって、消滅という死を迎える。


 周囲は死せる空間、死せる大地、消滅せしモノとなる。


 蠢く身体は、先ほどまでと異なり、小さくなっていた。

「小さくなったな、ゾンビの竜王」

まぁ、小さいと言っても、サトル=モモンガの数倍の身体で、アンデッドの本体が、顕れたに過ぎなかった。

「おのれぇ・・・竜帝の汚物がぁッ」

 突進するように、殴りかかってくるが、蒼い盾伏羲の盾に弾かれる。

 貢ぎ物によって、贈られる醜い“黒い仔山羊”が、どこからともなく顕れる。

<メェェェェェェ、メェェェェェェ、メェェェェェェ、メェェェェェェ、メェェェェェェ>

 五体の“黒い仔山羊”が、朽棺の竜王キュアイーリムに、襲い掛かっていく。

「くそがぁ」

 朽棺の竜王キュアイーリムが、近づいてくる、“黒い仔山羊”を殴り飛ばし、尻尾で弾く。

『こいつ、同レベルと、戦ってないよ、サトル』

 攻撃は、単調というより、上位者が下位者へ攻撃してくるような、上から目線の攻撃だけだ。“黒い仔山羊”レベル90を超えて、HPは凄まじく大きいが、それほど強いモンスターではない。朽棺の竜王キュアイーリムが、殴り飛ばせているし、尻尾に吹っ飛ばされているけど、斃すことはできていない。


 朽棺の竜王キュアイーリムは、かなり混乱していた、竜帝の汚物に仲間が殺されていって、自分は怯え隠れていた。竜帝の汚物どもを斃すために、必死で考え、力を蓄え、自身のプライドを捨てまで、新たな始原の魔法Wild Magicすら、創り上げることができた。

滅魂の吐息Wild Magic

 竜の咆哮から放たれる、白き光の束が薙ぎ払うように、“黒い仔山羊”達を叩き潰していく。

『はんッ』

 ピンクな触手が動かすピンクの盾女媧の盾は、竜の咆哮に合わせて、咆哮そのものを弾いていく。一体の“黒い仔山羊”が、弾かれた咆哮に、巻き込まれるように消えていく。

 攻撃を受けた相手を、完全消滅させる、ワールドアイテム“神殺しの槍ロンギヌスの槍”と同等の効果を持つ、滅魂の吐息Wild Magicが、“黒い仔山羊”を消滅させる。

「汚物がぁッ」

朽棺の竜王キュアイーリムが叫ぶ。

「俺の名は、鈴木悟。妻の名は、す、鈴木久美子だ。間違えるな」

『え、ちょっと』

慌ててしまう。

「そして、お前がアンデッドに変えた者達の一人、アンネ・ファスリス・インベルンは、俺の継母ははだッ」

現斬リアリティスラッシュ

 放たれた斬撃が、朽棺の竜王キュアイーリム、アンデッドの身体を切り裂いていく。

「うガぁッ」

 痛みは大きく無いが、切り裂かれた衝撃が、朽棺の竜王キュアイーリムに響く。


[newpage]#03 還らぬ者達

 すでに強弱は逆転し、朽棺の竜王キュアイーリムが、怯えるような色を、必死で隠しているのもバレていた。

「竜王朽棺の竜王キュアイーリム、取引をしないか・・・」

「取引・・・だと・・・」

「俺の目的は、お前を滅ぼすことじゃない、キーノ・ファスリス・インベルンの国をアンデッドから、人間の国に戻す方法を知ることだ。莫大な報奨金が提示されている」

「金・・・不浄な下郎・・・やはり汚物よな」

 後ろから、龍雷ドラゴンライトニングが放たれる・・・紅眼公の攻撃で、肩に金髪蒼肌紅眼True Vampierキーノが乗っている。

「サトルっ」

「キーノ・・・なんで」

 驚愕の目を向ける・・・

『まったく、待ってろって、言ったのにねぇ・・・』

クミコがぼやく。

「ごめんなさい、サトル様クミコ様」

 金髪蒼肌紅眼True Vampierの女性・・・アンネ・ファスリス・インベルンが、立っていた。並列と自律・・・ピンク色の肉棒な粘体Pink Elder Oozeの分体は、独立して行動することが可能であった。

滅魂の吐息Wild Magic

 白い閃光が、束になって襲い掛かる、一部が弾き飛ばされて、空中へ消えていく。大剣を構えた騎士、肩に乗った少女、冠が輝く女王、誰も消えていなかった。

「な、なんだとぉ・・・」

 始原の魔法Wild Magicを仕えるモノに、始原の魔法Wild Magicの効果は無い。確かめることは、できないが、予測はできていた。だからと言って、朽棺の竜王キュアイーリムからすれば、何体もの汚物が、始原の魔法Wild Magicを使えるのは、許し難いモノだった。

 後方へ突進しようとすると、ピンク色の触手が、朽棺の竜王キュアイーリムの尻尾を掴み、力任せに引き摺って、側方の壁へと叩きつける。サトル=モモンガが、瞬間移動テレポーテーションで、一気にアンネ・ファスリス・インベルンの前に庇うように出る。

「ちょっと、継母かあさん、無茶です」

「あら、婿殿ほどではないわ」

 いなすように、女王の姿で返してくる。うん、これは、クミコだ。


 近づいた結果、アンネ・ファスリス・インベルンの記憶が、クミコへと流れ込んでくる。

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