第2話 源氏物語Ⅲ
己がいとめでたしと見たてまつるをば、尋ね思ほさで、かく、ことなることなき人を率ておはして、時めかしたまふこそ、いとめざましくつらけれ
とて、この御かたはらの人をかき起こさむとす、と見たまふ。
物に襲はるる心地して、おどろきたまへれば、火も消えにけり。
うたて思さるれば、太刀を引き抜きて、うち置きたまひて、
「はい、ストーップ!」
ぱんぱんと手を打ち鳴らしてホラー展開全開の古風な人たちに待ったをかける。
緊張した面持ちだった古風な人たちは、現代っ子JKのパジャマ姿をありがたがるでもなく、なんかすごい微妙というか戸惑ったような感じで動きを止めた。
「これ違うよね? 私の要望ガン無視だよね? なんで夢の中でまで古典とかやらされなきゃいけないわけ? 新手のいじめか!」
「はあ……なんかすんません」
「やめろ、源氏が現代語で気の抜けた謝罪とかすんな」
なんなんだよもう。
『読書卵』の説明、半信半疑だったとはいえ多少は期待してたのに。効果は確かにあったけど、なんでよりにもよって学校の授業の延長がきたんだ?
なにこの裏切り。卵君、私は心底君を見損なったよ!
「はい、もういいから帰った帰った、解散!」
夢の主からの宣言で、とても素直に退場していく古風な人たち。
一人おんぼろ日本家屋に取り残された私は、大きくため息をついた。
これ、どうするのが正解なのか。私の夢だし、念じれば推しに会えるのか?
「あ、あのう……」
全員退去したかと思っていたが一人だけ残っていたようで、おずおずと声をかけられた。
「私、ここから離れられないのですが……」
見ると、その女性は気崩したボロボロの和服を着ていて、申し訳なさそうな顔をしながら透けて浮いていた。
「えーっと、ああ、六条の生霊さん?」
「いいえいいえ、とんでもない! わたくしごときがあの御方の生霊なんて!」
「え、違うの?」
女性は髪が乱れるのも気にせず、ぶんぶんと首を縦に振る。
「わたくし、あの御方の大ファンなのでございましゅ!」
あ、噛んだ。
なんだこのかわいいの。
というか、なんかこのノリ、私、知ってるぞ。
「あの方はとてもお美しく聡明で懐が深く慈愛あふれる素敵な御方! それゆえ幼き主人を諫めることもできずお困りの様子だったのです。こんなのってあんまりですよねそうなんですだからわたくしが一肌脱いで邪魔な女を取り殺してやろうかと!」
「うんうんそうだね、いったん落ち着こっかー」
なにやら私の知ってる源氏物語じゃないぞ。
いやまあ、所詮夢だしね。
それよりも、この人のこのノリと勢い、すごい親しみがある。
これ、あれだ。
たぶん、推し活してる人のあれだ。
つまりこの人は……仲間、か?
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