人違いなの?
男に連れられてある屋敷に着いた。どうやらこの男の住まいらしい。
何が何だか分からない私。何か言いたそうな緋那。
一体なんなの!何が起きているの!誘拐ではないのは確かみたいだけど。
まだ体に残る血の臭いをお風呂で清め着替えをさせて貰った。
やっと一息ついた頃あの男が部屋に入って来た。
「失礼してよろしいか」
「弥兵衛おじさま…」
どうやら緋那の知り合いらしい。先ほどまでの厳しい表情とは違って
好々爺と言っても良い位に優しい笑顔でこちらを見る。
私達の前に座った男は落ち着いた口調で話始めた。
「今回の件ですが……」
「ごめんなさい。さち……さちが……」
「違います。あの時に死んだのは緋那様。今ここにいるのは当家の娘さちにございます」
「えっ?」
「いいですか、ここにおいでの方は緋那様ではありません。さちです!」
「で、でも弥兵衛おじさま……」
「おじさまではありません!父上です!」
「で、でも……」
弥兵衛おじさまと呼ばれた男は周囲を確認して小声で話始めた。
「緋那様、事情はお察し申し上げます。ですが、今後は当家の娘として、
さちとして生きて下さい。いや生きて貰わねばなりません。身代わりになった娘の為にも」
「だから私が生きていては……」
「さちは緋那様として死んだのです。さちの命を無駄にしないで下さい。
これからは今までの様な生活をして頂けませんが、よろしいですか緋那様?そして名をさちに改め人前では弥兵衛おじさまと呼ばないことも肝心ですぞ」
「私が憎くはないのですか?娘の代わりに私が生き延びたのに。
私が緋那だと言えば良かったのに」
「さちはきっと緋那様を守れて良かったと思っているはずです。
あの時、緋那様ではないと言ってしまえば私は2人の娘を失います。
せめて緋那様だけでも生きていて欲しいと思ったのです。
これまで父君の大納言様には大変良くして頂きました。
これは私が出来る恩返しだと思っています」
「でも…… 弥兵衛おじさま……ごめんなさい私のせいで」
「だから、父上と呼んで貰わないと私まで嘘をついた罪に問われる。
私では御不満かと思いますが平にお頼み申し上げます」
「そ、そんなことはないです!頭を上げて下さい。
ねぇ弥兵衛おじさま。私は娘なのですよね?それなら敬語は必要ないです」
「確かにそうだな」
今度は2人は笑い合っているけど何がどうなってるの?
一体何なの?
全く事情が分からないまま、2人の会話は終わってしまった。
1人取り残された気分だわ。ここまで来たら私にも緋那のこと
教えて欲しいよ。
弥兵衛おじさまと呼ばれた人が部屋を去ってから、緋那が話かけてきた。
「そうだね、楓乃。分からないことばかりだよね。巻き込んでごめんね。
全部私が原因なの」
俯きながら緋那は語り始めた。
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