ジグソーパズル

かるびの・いたろ

第1話

ものすごい夕焼けだ。

風が強い。嵐でもないのに。

私は友の家へいそいだ。

「いいもんみつけたよ、きてみ」

彼は電話ごしにふくみ笑いでいった。

私はまず画像を送るよううながした。

相手はくればわかる、をくりかえすのみだ。

私は訪問を約束した。


彼の部屋についた。

灯りをつけてない。

「なんだか夕焼けがものすごくてね、いいよ」

私は電気をつけた。問題のものをみせるよういった。

「なんだ」

私は拍子ぬけした。

それは完成途中のジグソーパズルだった。

それもバブルのころデパートでよく売られていたイルカを描いたものだ。

赤みがかった紫がうねる色調に見覚えがあった。

友は無言で共に続きをやるよう私に指示した。

断る理由もない。一緒にジグソーパズルをつくりはじめた。

最初に微妙な違和感を覚えたのは、ジグソーパズルのイルカの絵だ。

頭身が歪んでいる。

よくみるとイルカなのに小さい手足が生えている。

まるでカエルになりかけたオタマジャクシだ。

「バッタもんじゃないか、これ」

例のイルカの絵はよく売れた。しかし質のわるい模造品まででまわるとは。

つづきをすすめる。さらに気になるものがあった。本来のラッセンの絵ならあるはずのない触手めいたものがあるのだ。

友はなにもいわず黙々と作業をしている。

私は指摘する気分にもなれない。しかたなく自分もパズルの続きをつづけた。

ジグソーパズルはほぼ完成に近づいた。

手足の生えたオタマジャクシめいたイルカ。

イカやタコを彷彿とさせるがどれともちがう触手のある軟体生物。

「ないな。ジグソーパズルのピースはこれでぜんぶだ」

ジグソーパズルのピースがひとつ欠けている。二人でさがした。どうしてもみつからない。

とうとうあきらめた。

私はあいさつをして帰途についた。あのもの凄い夕焼けはラッセンの絵によく似ている。

 

次の日電話が鳴った。

「あった」

例のパズルのピースがでてきたという。

「どこにあった」

「それが、酒のつまみにイカの塩辛をつくろうとしたら・・・」

ずるっとイカの内臓をひきずりだしたとき一緒にでてきたという。

本来紙でできているもののはずだ。それなのに水で洗ってもふやけない。

イカの内臓からでてきたのに、折れたり欠けたりした部分もない。

「最後のピースをはめたんだ」

不自然な沈黙がある。

「喰ってるんだ」

ようやく友がきりだした。

「あいつら。ジグソーパズルのなかのあいつら、おたがいにおたがいを喰ってるんだ。もうすぐ俺もひきずりこまれる」

電話はそこできれた。


私は数日後友をたずねた。

彼はずぶぬれになって死んでいた。死因は溺死ではなかった。なにかに全身をものすごい力でしめつけられたことによる窒息死だった。

彼の部屋で例の完成したジグソーパズルをみた。

生き物がなにもいない、ただの海の絵になっていた。

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ジグソーパズル かるびの・いたろ @karubino

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