第2話 1年2組1番

「きっとお前のことを助けてくれたのは、ポニーテールの応援団の喧嘩の強い先輩だったんじゃないか。ほら、学ラン着た女子が控えてるだろ」

 久保はステージの下に横一列でならぶ女子の先輩たちを指差して言った。

「あの中にいるんじゃないか? どんな顔だったんだよ」

「うーんとね、太い眉、するどい目つき、ホッペはすこしふっくらしてて、背は僕と同じくらいで……」

「なんだよソレ、まったく想像できないな」

「絶対男子だと思ったんだけどな……」

 中野林はそう言いながら応援団の女子たちを眺め回したが、今朝見た顔は見つからなかった。

「いないよ」

「きっとそのうち合流するさ」

 そう言った久保だったが、入学式が始まっても中野林の言う「チョンマゲ」は見当たらなかった。しかし二人は思わぬところでチョンマゲの後頭部を目撃することになる。それは中野林と久保のクラス1年2組の点呼がされた時だった。一人目の名前が担任の先生に読み上げられる。体育館中にマイクを通した先生の声が響き渡る。


「あほうきよまる!」

「はい!」


 それまでの誰よりも堂々とした威勢の良い返事と共に一人の男子生徒が立ち上がった。その頭髪は「チョンマゲ」だった。それを見た生徒達が少し声をあげてその場がざわざわとした。久保は振り返って中野林の方を見ながら「居たぞ!」と口パクでチョンマゲを指差して言った。中野林は素早く二回頷くと1年2組1番の阿方清丸の後頭部を凝視した。間違いない。今朝の彼だった。

「同じクラスの一年生だったんだ……」

 チョンマゲはしばらくすると元通りに座り、次の生徒の名前が呼ばれた。


(今朝のお礼をしなきゃ。あとで声かけよう)


 中野林はクラスメイトの後頭部群からニョキッと飛び出たチョンマゲがユラユラするのを眺めながら、


(友達になってくれるかな……)


期待と不安の入り混じった気持ちを抱いていた。

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