5月17日 『ひとり』がふたり
俺は海沿いの田舎町に生まれた。
物心がついた頃から親に「お前はエスパーだ。力を見せないように人と関わるな」と言い聞かされてきた。エスパーはその実態を一般人に晒しては行けないという掟がある。
しかし、どうやら俺は物心がつく前、家の中で能力がモロ出しになってしまうということが多々あった。能力が出てしまうたびに家の中のものが飛び回ったり落ちたりしてしまっていたらしい。それが外で出てしまうと大変だと言われこうなった。
それは幼稚園になっても変わることはなかったんだ。
だから俺には友情というものもわからない。
5歳の頃に両親はいなくなってしまったけど小学校の頃も、その教育の名残で誰かと関わったり遊んだりすることはなかった。
これが本当の『ひとり』だった。
勿論女子経験もあまりなかった。女子と話したこともあまりない今まで付き合った人は1人しかいないし、今でこそ学校でモテていて告白されたりもあるが、自分に恋なんてわからなかった。だからOKすることもなかった。
…そんな俺がいきなり女の子を拾ったってどうすればいいのか。誰か1から100まで教えてくれ…
そんなことを思いながら翔兎はコンビニのトイレを出た。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
やめて…
『やっぱブスやな
『なんでうちのクラスにいるんだよ。可愛くない女子は見たくないんだよ。目障り』
なんでそんなこというの…?
『いじめられたくないなら転校しな』
いやっ…やめて…これ以上…
『生きてる価値ないよお前みたいなブスは一生ブスなんだよ』
なんで私は…こんなこと言われないといけないんだ…
『あんたは晩飯なしね。勿論異論はないよね?』
『お前はなんで生まれてきたんだよ。この家の粗大ゴミでしかないわ』
うぅ…もうやめて…私を傷つけないで…
もうやだ…死にたいよ!この世から逃げさせて!
逃げなきゃ…遠くに…逃げなきゃ!!もう私は…
『逃げられるわけないだろ?大人を舐めるなよ。来い』
嫌ッ…!もうあの家と学校に戻りたくない…!やめて…!引っ張らないで…!
ヤメテ…ヤメテクレ…!
…………………………………………………………………………………
「やめてっっっっっっ」
…あれ。夢…?
気づくと見知らぬ部屋のベットで寝転がっていた。
なにここ。うちの家らしくない部屋だなあ。
結衣は何があったかを思い出すため、脳を働かせようと思ったが頭がガンガンして何も考えれない。
時間が少しづつ経つにつれ頭だけでなく全身が痛み始める。足も頭も腕も痛む。一旦頑張って起きあがろうとしてみたが、痛みに耐えれずまた寝転がる。
そしてまた気づく。結衣の腕は包帯のようなもので包まれていた。
何これ、包帯?私骨折してるの?
結衣の腕に巻かれた包帯は肩を伝って腕を固定させるようになっていた。
足にも巻かれていてその足は動かしたくても動かせない。
足も?なんかすごい重症っぽい。どうしよう。
結衣はとりあえず、ここがまだどこかわからなかったので周りを見渡した。窓の前にある机には高そうなパソコンとキーボード、マイクなどがあった。まるで配信者みたいだ。
反対側にはクローゼットがあり、男の子物の服が色々かかっていた。地面にはバスケットボールが落ちていた。
間違いない。ここは私の家じゃない。お父さんの部屋でもない。とにかく何があったか思い出さないと。
うぅ…頭痛い…何があったんだけ?
思い出したくても思い出せなかった。結衣は頭部への衝撃で記憶を飛ばしていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
コンビニから出たところで翔兎は予報されていた夕立に襲われた。
しかし、
「あ、傘塾に忘れた…」
塾から帰る前に5回くらい「傘を持って帰る」と心の中で言ったのに、傘を塾に置いたままというド天然を発動していた。
「まーいいや。楽しよ」
翔兎はダッシュで人気のない公園まで行って、そこから飛んで帰った。
エスパーはこれができるから楽なんだよな。気軽に使えないけど。
5分もしたら家に着いた。明日のバスケの朝練のための準備をして、さっきコンビニで買ってきた弁当をかっこむ。翔兎は食べながら女の子の事について疑問を抱いていた。
あの子は頭から血を流していた。それに足と手を骨折していた。あんな怪我自分でつけたとは思わない。飛び降り自殺にしてもあんな骨折の仕方はしないだろうし、まずあの場所には屋根があった。だからその可能性もない。
だとしたら…何者かにやられたのか…?
これは警察沙汰なのかも知れないな。
それにしても酷い怪我だった…
………………
———まるで虐待されたかのような傷のでき方だったな。
翔兎はそんなことはないか——なんて思いながら家路についた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
やっとのことで起き上がることができた結衣は、改めて周りを見渡す。
「……!!」
急にめまいが襲ってきた。出血しすぎで貧血気味っぽい。結衣はうずくまった。吐き気がする。目の前がぐわんぐわんして気持ち悪い。
しばらく結衣は吐き気を我慢していたが、ついに我慢できなくなってきた。
「…っ」
やばい。気持ち悪くて仕方ない。トイレ行かないと…ここで吐くわけには…
結衣は片足のままその辺に捕まりながら部屋のドアを開けた。扉を開けるとそこには広いリビング。ダイニングキッチン。そして窓の外にはバルコニー。階段は見当たらない。
『マンション…?』
マンションにしてはとても広い。
「…!」
恐れてたことが結衣を襲った。結衣は急いでトイレに駆け込んだ。
トイレから出てくると、少しだけ気分が良くなった。それと同時に少しだけ何かが思い出せそうだった。…さっきの夢のようなことがあったような気がした。
——なんだろう。この張り詰める胸騒ぎは。本当に気色悪い。
もうちょっとのところで思い出せそうな記憶がまた遠のいて行く。
あの夢は現実だったのかもしれない。ここ最近もずっとあったのかもしれない。そんな気しかしない。
そんなことをリビングの椅子に座りながら考えていた。
ガチャッ
見渡した時に見えた玄関の方から鍵を開ける音が聞こえてきた。結衣は慌てて片足を引き摺りながらトイレがある方に隠れた。
壁の影からこっそり覗くと、そこには1人の見知らぬ男の人がドアを開けて入ってきているのが見えた。
『この人がここの家の人かな…』
そう思っているとカバンとレジ袋をその辺に置いた男の人はこっちに向かってきた。
このまま隠れたままだと意味がないので勇気を出して男の人の前に姿を現した。
男の人はひどく驚いた。
「うわっ…!起きてたのか?お前怪我ひどいんだからあんま動き回らない方がいいよ。悪化してしまう」
それはそうなんだけど…気持ち悪くてトイレ行ってたからなぁ…
結衣が申し訳なさそうに下を向いていると、翔兎は聞きたいことがあるからそこの机に座って欲しいと言った。
「一体何があったのか教えてくれないか?」
「…」
やはり思い出すことができない。頑張って絞り出そうとするが、全くわからない。
「もしかして記憶喪失してる?」
心配そうに翔兎が声をかける。
「うん…多分」
「お前って中学生?名前って何?」
「…今高一で名前は………」
…あれ 私の名前なんて言うんだっけ…
「…名前思い出せない?」
虐…待…
…!!
そうだ、私は今まで…そして今日も親に…
徐々にこれまでの記憶が沸々とインプットされる。
「うっ……」
結衣は頭を抱えた。頭の痛みがまた襲ってきた。傷で痛いのと嫌な思い出のせいで余計苦しい。
「大丈夫か?ごめん嫌なこと言った?お詫びに俺お前のために色々買ってきたからこれ飲みなよ」
翔兎はそう言ってポカリを渡してきた。結衣はそれを手に取るや否や一瞬で飲み干してしまった。
「ありがとう…これもう一本…欲しい」
グゥー
「あっ…」
「やっぱり何日か何も食べない感じだね。俺今からさ、ちょうど晩飯作るところだから食べなよ」
え、いいの?私なんかに?
「全然いいんだよ。そんな状況下にいた人には作ってあげないと気が済まない。そこまで備蓄してある食料は少なくないしさ」
え…?私今『え、いいの?』って口に出してた…??
「あの…私何も言ってないです…」
あっ…まずい…
実はこの時翔兎はテレパシーを使っていた。翔兎は慌てて言い直した。
「いや顔に思いっきり書いてあったから」
翔兎はそのあと話を遮るように終わらせた。
翔兎はスーパーに寄って買ってきた食材で得意料理の肉じゃがを振る舞った。
当然すぐに平らげられ、3杯くらいおかわりされた。
現最強の能力者の高校生の俺がJKを拾う話。 カラマリ @moderate
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