第16話 買物2

 端夜が燈の玉を見つけた昨日の夜は、迅斗が宿代を全て払った。


「悔しいけど、嬉しいから、今日は俺の奢りにしてやるよ」


 海の底にいたとしても、聞こえるくらいの元気な声で叫んで、勢いよく札を叩きつけていた。



 探査機に示された、燈の玉の落下地点に向かう途中で、探査機から「町の方々の協力により、燈の玉は無事発見されました」という連絡が入った。


「端夜の次の日に見つけたら、引き分けだろって思ってたのに、挑戦権なしかよ」


「食料無くなってきてたし丁度いいだろ」


「じゃあ、私のあの店で野菜買ってくる」


 私が指さした店の隣には、雑貨店があった。


 野菜を選んだのはそれが理由。


 頼まれた買い物をすぐに済ませてこっそり、雑貨店に入る。


「洗濯のりと、透明の瓶」


 八百屋で少し安めのものを選んで、余った硬貨で洗濯のりと四角い小さな瓶を買う。


「買い出し終わったよ」


 雑貨店で勝ったビニール袋を隠しながら、野菜の入った袋を端夜に差し出す。


「ああ。ありがと」



「じゃあ、昨日の宿に戻るか」


「用があるから、二人は先行ってていいよ」


「そうか。気をつけろよ」


 二人を見送ってから、私は一人で野端を摘む。


 青みがかったやさしい紫と白の小さなツルマメの花。


 大きな葉っぱの部分をよけて、優しく花の部分wp三輪ほど取る。


 とっても、小さい。 だけど、とってもきれいな花。



 ちょっと歩くと、ぺんぺん草のような紫の淡い花を見つけた。


 これもまた摘み、瓶の中に入れていく。



 淡くて、優しい空色の、茎の両端に小さな花。


 透きとおるような紫をした大きめの花。


 青に包まれた花の中に、カタバミの花の黄色が光って、あの夜の夜空のよう。


 あの夜空をイメージして、青い花を下の方にカタバミを上の方に配置していく。


 世界が美しいって、初めてそう思えた場所だったし、夜空がコンセプトというのは意外にいいアイデアかもしれない。



 端夜、喜んでもらえるといいな。


 少し緊張しながら宿に入って、部屋をノックする。


「あ、キミハ帰ってきたか」


 ガチャガチャと鍵を開けて、部屋の中に入る。


「ただいま」



「お。お帰りキミハ。何してたん」


 迅斗がそふぇーに座ってのんびりしながら訊く。


「うん。ちょっとね」


 手で、さっきのハーバリウムを握ったまま、渡す勇気が出ない。


 部屋に入る前は、自信満々で渡すつもりだったけれど、相手を前にすると不安になってしまう。


「端夜。これ」


 そこまで言うのが、やっと。


 ハーバリウムを握った手を端夜の前に差し出して見せる。


 キョトンとした顔。


 戸惑いながらも、「これって、何?」と尋ねる。


 そう補足すると、手に載ったハーバリウムをじっくりと眺めた。


 目を大きく開け得て真剣な顔。


 みられている対象は、ハーバリウムの筈なのに、段々と恥ずかしくなり、顔が赤く染まっていく。


「そうだな。綺麗だな」


「お祝い」


 優しくそのハーバリウムを端夜は受けとった。


「ありがとう」という言葉と共に。



「綺麗だな」


 ハーバリウムを眺めて深く呟く。


「夜空をイメージしてて、青が空でカタバミが星みたいな感じで」


「夜空の星か。いいな」


 うっとりと手に握ったそれを眺めて、黒の巾着袋に仕舞った。



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