薔薇の氷

水森 凪

第1話

きみが死んだら 

かき氷のようにきみを削って

しゃりしゃりと削って

羽のように軽く何枚も、何枚も折り重ねて

(そうだね、台湾のマンゴーかき氷のように)

あまい甘いシロップをかけて

とけてしまう前に ぼくのものにしよう

ひとくちふくむたびにきみは溶ける

陽の光になんてわたさない きみのすべてはぼくのなかで溶ける

誰かに聞かれても きみなんていなかったのだと

空っぽになったガラスの氷皿を前に平然と言おう

ガラスの皿には大輪のバラの花が彫ってあって

ぼくはそのバラのことしか知らないという

ずっとこのバラしか見ていなかったのだと

そうさ誰にもわからない

きみがすっかりぼくのものになったなんて

きみのことを忘れないなら ぼくもいつかバラになれる

ぼくらはもうどこにもいない

どこにもいない

いつまでも バラの氷のなかにすんでいる



                       <了>

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薔薇の氷 水森 凪 @nekotoyoru

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