第2話 「曇ったグラス」

一週間後、仕事で理不尽に怒られた悠は、

帰り道で気づけばあの雑居ビルの前に立っていた。


「こんばんは、坊や。今日は顔が曇ってるわね。」

麗子はグラスを磨きながら、何も聞かずにラムを注いだ。


 やがて、悠は上司に不条理なことで叱責された話を、ぽつぽつと語り出した。

麗子は一度も茶化さず、最後まで静かに聞いていた。

そしてグラスを差し出しながら、少し笑った。


「人はね、正しいことより、安心することを選ぶ生き物よ。

正しい人ほど、しんどくなるの。

だから、自分の正しさを守るために、ちゃんと休みなさい。」


 ラムの甘さが、

苦く張りついていた心を少し溶かした。

店を出る頃、外の空気が少しだけ軽く感じた。

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