君の夕日は何色
沖野大夫
1章「聖女との邂逅」:第1話
四月の空気は、乾いていた。
高校2年生にして初めてのHRを終えて、教室のざわめきがようやく落ち着き始めた頃。ドアが静かに開いた。
カツ、カツ、と硬質な音を立てて入ってきたのは、細身の女性だった。濃紺のスカートに、シンプルな白いシャツ。派手さはないのに、どこか目を引く。誰かが小さく「新しい先生かな」とつぶやいた。
「歴史を担当します、波多野です」
黒板に「
大人の余裕。いや、むしろ、何を考えているのかわからない圧。
「自己紹介とか、あんまり得意じゃないんですけど」
微笑むでもなく、淡々とした声。それがかえって教室全体の空気を凍らせた。
俺は、内心で眉をひそめた。どこか冷たい。何を考えてるかわからない。苦手なタイプだ。
「私は基本、授業中に生徒の顔と名前を一致させます。なので、変な答えをした人は、目立つので覚えやすいですね」
前の席の女子が「えっ」と息をのんだのが聞こえた。冗談か本気かわからないその口調に、教室の空気がまた硬くなる。
(うわ……やっぱりちょっと、無理かも)
俺は教科書の隅を指でなぞりながら、頭の中で早々にこの先生との距離を引いた。なるべく当てられないようにしよう。必要以上に関わらないでおこう。そう思った、その瞬間――
「そこの男子。君」
心臓が跳ねた。
「
教室中の視線が一斉に自分に集まった。
なんで、俺――。
「“人間は歴史から何を学ぶのか”って、どう思う?」
拍置かれた空白に、俺は答えを探した。でも、教科書に載ってるわけでもない。正解なんて、あるのか?
たぶん、これは“試してる”。そう、感じた。
「同じ過ちを、繰り返さないように、ですか」
波多野は一瞬だけ目を細めた。まるで、こちらの中身を透かして見るような目だった。
「ふうん。まあ、模範解答ってところね。でも、それが本当に可能なら、戦争も差別ももうないはずよね?」
俺は言葉を失った。
教室は静まり返っていた。多くの生徒が、この先生に“警戒”を抱いた瞬間だった。
(俺、目ぇつけられたな……)
それが、波多野彩菜との、最初の接点だった。
俺はそこそこ勉強は順当にできていると信じていた。そして今、この進学校にいる。でもなぜ…
チャイムが鳴り終わった瞬間に、波多野は教室を去っていった。
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