コウとルナ
洸(コウ)は生まれたばかりの妹を見つめていた。
そっと指を伸ばし、妹を包む肌着に触れる。
むにゅむにゅ。
目を閉じたまま、赤ん坊は唇を動かした。
「なんか話した?」
奈緒は洸に問う。
「うん」
洸はうなづく。
「なんて言ったの」
寛(カン・父親)は興味深げに訊ねた
「ルナ」
「え?」
奈緒は聞き返した。
「ルナ、だって。」
洸は真っ直ぐ妹を見つめて言う。
「ルナ。
…るな って言ったのか」
寛は、何か納得したように呟いた。
「いい名前じゃないか、ルナ」
にっこり笑って彼は奈緒を見た。
一瞬目を見開いたが、奈緒はすぐに理解した。
そして言った
「ルナ。 洸が名付け親ね」
穏やかにルナを見つめる洸に、私は目を見張った。
彼の身体を包む金色の…
(いや、まるで 金色の粉が彼の身体から発せられているようだ)
金色のオーラを纏う人を、私はそれまで見たことがなかった。
まさか。こんな近くで見ることができるなんて…。
しかも、金色だけじゃない。
うっすらと紫が、煙のように立ち上っている。
金色は成功とカリスマだと聞く。紫は直感、先見の明。まるで未来を約束されたような子。
二歩ほど下がった洸の後ろには、袴姿の壮年の男性が刀を腰に、佇んでいた。涼やかな目元、痩身。身なりからして名のある侍のようだ。
彼が洸の後ろを守っているのか。
※ ※ ※
「寒くないか?」
病院裏手の入口から出た寛と洸は、駐車場へ歩いていた。
手を繋ぎ、歩を進ませる洸に寛が声をかける。
「うん」
洸はうなづいた。 夜気は屋内より冷えていたが、それが心地良かった。
「そうか。ママ、陣痛が来てから産まれるのは早かったけど、さすがにもう夜中だな。
無事産まれたし、早く帰って風呂に入って寝よう」
「うん」
寛を見上げる洸の瞳がきらきらと光った。
空を仰ぐと、天は晴れ渡りため息が出るような美しい月が中天にあった。
…弓張月。
そのとき一陣の風が吹いて、何処からか花弁が舞い降りた。
駐車場を囲む桜並木が、たわわに咲いた桜の枝から花を散らしている。
「なんて綺麗な夜なんだ」
寛は思わず呟いた。
洸は父を見て、空を見上げ。
白い歯を見せて笑った。握った手を振り、
「パパ、早く帰ろうよ」
明るい月が、二人を照らしていた。
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