第66話 女王の帰還、そして冬の温もり
伝説となったゲリラ配信の後。
ユキさんは、憑き物が落ちたように、穏やかで晴れやかな表情をしていた。
リサは、そんな彼女の隣でスマホの画面を見せながら、自分のことのように興奮している。
「ユキさん、すごいことになってますよ! 『#スノーティアの離宮』が、ピクニコ動画のトレンド、ぶっちぎりの一位です!」
「『今日の女王様、いつもと違って、すごく人間味があって、最高に尊かった』って、ファンからの絶賛コメントが、鳴り止みません!」
寄せられる温かい反響の数々に、ユキさんは、恥ずかしさを顕にしながらも、本当に嬉しそうに何度も「ありがとう」と呟いていた。
やがて昼前になると町の除雪隊が民宿までの道を切り開いてくれた、という連絡が入った。
ユキさんの車を雪の中から引き出し、彼女を最寄りの駅まで送り届ける、レッカー車の手配も無事に完了したらしい。
別れの時が近づいてきていた。
ユキさんは、名残惜しそうに民宿の中をゆっくりと見て回った。
自分を骨抜きにしたあの魔性のこたつに、「お世話になりました」と、そっと一撫で。
自分を温めてくれた、薪ストーブの炎を、じっと見つめる。
そして、プルやゴブ吉、キノコうさぎの親子たちに、一人一人、しゃがんで目線を合わせ別れを告げた。
「みんな、本当にありがとう。元気でね」
出発の時。
玄関の前に立ったユキさんは、改めて、俺とリサに向き直ると深々と、その頭を下げた。
「田中さん、リサさん。本当にありがとうございました。吹雪の中で助けていただいた命も、そして……凍りついて、壊れかけていた、私の心も。お二人に救われました」
彼女は宿泊費の入った丁寧な封筒を差し出した。
俺が「いいんですよ、遭難者を助けただけですから」と断ろうとすると、彼女は悪戯っぽく、ふふっと笑った。
「いいえ。これは宿代ではありません」
彼女は一瞬だけ、あのクールな雪の女王の瞳になって言った。
「これは『雪の女王』が、最高の『秘密の離宮』とその管理人、そして一番の家臣に支払う心からの敬意です。受け取ってください」
あまりにも粋な言葉に、俺とリサは顔を見合わせて笑い、ありがたく、それを受け取ることにした。
迎えの車がクラクションを鳴らす。
彼女は最後に、俺がストーブの前で編んでいた、あの不格好な毛糸の帽子を指さした。
キノコうさぎの子供用に編んでいた、小さな白い毛糸の帽子。
「あの……もし、よろしければ。記念に、それを、一ついただいても、いいですか?」
俺が頷くと、彼女は小さな帽子を、まるで宝物のように、大切そうに、コートのポケットにしまった。
それは彼女がこの場所で手に入れた「温もり」の小さくて確かな象徴だった。
「また、必ず、帰ってきます」
彼女は最高の笑顔で言った。
「今度は、遭難者としてじゃなく……ただのユキとして、この温かい離宮に。その時は、また、あのおじ……いえ、管理人さんの、おいしい雑炊食べさせてくださいね」
彼女を乗せた車がキラキラと輝く美しい雪道の中を走り去っていく。
俺とリサは、その姿が見えなくなるまで、ずっと手を振り続けた。
静けさが戻った民宿。
ストーブの前には、ユキさんが使っていたココアのカップが、一つだけ、ぽつんと残されている。
リサがカップを片付けながら呟いた。
「すごいなあ。今夜のスノーティア様の定期配信……どうなるんでしょうね」
俺は窓の外に広がる、どこまでも白い雪景色を見ながら、ただ静かに微笑んだ。
「さあな。だが、きっと、今までよりも、少しだけ、優しい女王様になるんじゃないか」
厳しい冬の嵐がこの民宿に、またかけがえのない出会いと温かい記憶を残していった。
雪はまだしんしんと降り続いている。
長い、長い冬は、まだ始まったばかりだ。
だが、この民宿の中には、どんな吹雪にも決して負けることのない、確かな温もりが満ちていた。
―――
これにて8章完結です。
最近は他作品のことでも忙しく、このようにお礼をお伝えすることができませんでした。
ここまで執筆できたのもそうですし、この一つの作品を長く投稿できているのも、皆様の応援のおかげです。
本当に感謝しかありません。
今、色んな作品を書いてる私ですが、正直、私自身が書きたい物語はこの作品のような心温まる物語です。ですが、なかなかWEB小説の分野では読んでもらえないのが現状です。
この作品だけは、思いっきり書きたいものを書く、完結を取り消したときに決意しました!
長々とごめんなさい。
これが私が本当に書きたかった物語。
これからも頑張りますので、応援よろしくお願いします。何卒、他作品も読んでもらえたら尚嬉しい限りでございます。
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