再出発

俊も彩希も、今回のことで心に負った傷は一生癒えることは無いかも知れない。

だが、これからの人生も決して辛いものばかりでは無い。

なぜなら、彼ら派に心強いサポーターが付いている。

圭と敦也だ。

2人はどんなことがあっても、周りに何と言われようとも、俊と彩希を守る続けてきた。

そんな彼らがいたからこそ、俊も彩希も前を向いて歩き出すことが出来た。

イジメという、底の見えない暗闇から。


世間は狭くて広い。

今この瞬間にも、まだ残酷なイジメで悩んでいるものもいるかもしれない。

その人に、少しでも励みになるならと、懸命にリハビリを続けて、少しずつ自由に身体を動かせるようになっていった。


―――時は経ち、また新年を迎えた。


彩希は賢明にリハビリをした成果を出し、普段の生活で不自由のないほどにまで動けるようになっていた。

そして一番懸念されていた学園への復帰だったが、周りは転校を勧めるも、彩希自身が「ここまで来て逃げたくはない」と言い張り、上条学園への復学を希望した。

学力については、一年間眠っていたこともあり留年が決まっていた。

そして俊もまた心の傷から教室へ入れなかった分、学力が遅れていると判断され同様に留年することが決まり、2人はそれぞれもう一度3年生となり、無事に卒業できることを望んだ。

一方で、圭と敦也は先に卒業し、共に同じ高校へと進学した。

学年は変わってしまうが、圭も敦也も「俊も水瀬も一緒に来いよ」と2人の入学を待っていた。


そして季節は流れて。

それぞれが想い想いに自分の居場所を見つけて、懸命に生きていこうと誓った。

俊の左腕に残されたリストカットの痕も、もうほとんど目立たなくなる程までに薄くなっていて、あれ以来自傷行為をしていないことが窺えた。

まだ心からの笑顔を見せるのはむずかしいが、少しずつ俊は自分の想いを正直に話すことを決め、その表情もだいぶ柔らかいものになっていた。


それでも、時々はまだあの頃の夢を見てしまうときがあるらしく、夜な夜な苦しむこともあった。

そして衝動的に、自傷行為をしそうになる事もあったが、すぐに誰かに助けを求めて、圭も敦也もそして弥月も、皆がいてくれることに感謝し、そして互いに信じ合った。


―――いつか、この苦しみが、笑顔に変わりますように………と。


そして迎えた新学期。

真新しい制服に身を包む俊と彩希。

入学式も終わり、皆が自由に談笑している中、俊は彩希を見つけて、微笑みかける。

そしてその様子を校門から見ていた圭と敦也も加わって、4人で記念写真を撮ることにした。


俊はその写真を、引き出しに仕舞っていた彩希とのツーショット写真と一緒にサイドボードに飾った。

二つの写真は太陽の光に照らされて、輝いていた。


そこに映る俊の表情は、どちらも変わることの無い、心からの笑顔だった。

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